Oracle Database 12c R2には非常に多くの新機能があります。これまでに存在しなかった純粋な意味での新機能もありますし、従来から存在している機能を改善した位置づけの新機能もあります。これらの新機能すべてをチェックすることは非常に大変な作業です。本連載では、Oracle Databaseを日々愛用(≒酷使!)するコーソルのOracleスペシャリストがチェックし、特に有用と思われる12c R2新機能をご紹介します。
是非本連載の記事をご覧いただき、現場で活用できそうな機能がありましたら、ぜひその新機能を使っていただきたいと思います。
本連載が、みなさまのお役にたてば幸いです。
株式会社コーソル 杉本 順(すぎもと じゅん)
Oracle Databaseのサポートエンジニアを経て、Oracle Databaseの導入・構築支援業務に従事。
現在、担当範囲をOracle Database以外にも広げるため、Oracle Audit Vault and Database Firewallなどのセキュリティ製品を日々勉強中。
休日は会社の野球部(COSOL HEARTS)の活動に参加し、大会での活躍を目標にこちらも鍛錬の日々。
甘いものを食べたい欲望と肥満とのバランスが現在の悩み。
株式会社コーソル 岡野 平八郎(おかの へいはちろう)
独立系ソフトハウスで約4年間IBM DB2、 SQL Serverの運用管理を担当した後、スキルアップできる環境があり、行動指針にも共感できたコーソルへ2006年4月に転職。
現在はOracle Databaseの技術支援を行う傍ら、チームの「ご意見番」として、蓄積した技術や対応スキルなどを惜しみなくメンバーへ伝えている。
ORACLE MASTER Platinum Oracle Database 12c(一番乗り)など、保有資格は多数。 趣味はソロスタイルのアコースティックギター。
[会社紹介]
株式会社コーソル
Oracleを中心にデータベースの設計、導入・構築、運用管理、保守・サポート、コンサルティング等、「Oracle Database技術」の強みを活かしたビジネスを展開。エンジニア社員の「ORACLE MASTER」の保有率は98%に及び、その内の約40%はORACLE MASTER Platinumを取得している。技術者を数多く育成した企業に贈られる「Oracle Certification Award」を5年連続で受賞。2016年現在、企業別ORACLE MASTER 11g/12c Platinum取得者数ランキングで国内No.1。「CO - Solutions=共に解決する」の理念のもと、「データベース技術」×「サービス」を軸とし、高いDB技術をもとにお客様へ"心あるサービス"を提供し続けることにこだわっている。
昨今、頻繁にニュース等で報道されているセキュリティ・インシデントを受け、弊社でも機密情報を取り扱う基幹システムにおけるOracle Databaseセキュリティ強化のご相談を多数いただいています。相談のなかで良く頂戴する要望に、アプリケーションへの影響をできるだけ少なくしたい、運用コストの増加を可能な限り抑えたいというものがあります。
そこで、本稿では、数あるセキュリティ関連の機能から、既存システムへの影響をできるだけ少なく、かつ、運用コストの増加を可能な限り抑えて、セキュリティの向上が期待できる機能として「Oracle Data Redaction」とOracle Database 12cR2で機能強化された点をご紹介します。
杉本 順、岡野 平八郎 株式会社コーソル
※: Oracle Data RedactionはOracle Advanced Security Optionの機能です。また、Oracle Advanced Security Option は、Enterprise Editionのオプションです。
これからご紹介するOracle Data Redactionは、データベースに格納されているデータには一切の変更を加えることなく、問い合わせに対して返される結果のみをリダクション(マスキング)する機能です。
具体的なOracle Data Redactionの特徴としては以下が挙げられます。
Oracle Data Redactionの用例としては、PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)などの業界規則を満たす目的などが挙げられます。具体的には、カード会員番号(PAN:Primary Account Number)のマスキング要件に対応することができます。
PCI DSS v3.0 要件:3.3
表示時にPANをマスキングして(最初の6桁と最後の4桁が最大表示桁数)、業務上の正当な必要性がある関係者だけがPAN全体を見ることができるようにする。
引用元
Payment Card Industry(PCI)データセキュリティ基準 バージョン 3.0
https://ja.pcisecuritystandards.org/_onelink_/pcisecurity/en2ja/minisite/en/docs/PCI_DSS_v3.pdf
図1で示すようにOracle Database内にリダクションする条件を定義したリダクション・ポリシーを作成および適用することで、業務上の正当な必要性がある関係者(管理者)は、PAN全体を表示させ、オペレータは最後の4桁のみ表示(最初の12桁を’*’でリダクション)とする事ができます。
図1:Oracle Data Redactionの用例
以降で、Oracle Database Redactionの具体的な機能を紹介します。
Oracle Data Redactionの機能により、リダクションを行うためには、まず、リダクション・ポリシーを作成し、リダクションの条件を定義する必要があります。このリダクション・ポリシーには、リダクション対象のオブジェクト、リダクションの種類、実行する条件などを定義します。表2にリダクション・ポリシーを定義するために必要な項目と特徴を示します。
表1:リダクション・ポリシーの構成要素
構成要素 | 項目 | 特徴 |
リダクション対象のオブジェクト | ポリシー名 | ・リダクション・ポリシーの名前 ・表またはビューに定義できるリダクション・ポリシーは1つ |
スキーマ名 | ・表またはビューを所有するスキーマの名前 | |
オブジェクト名 | ・表またはビューの名前 | |
列名 | ・表またはビューの列名 ・複数の列にリダクション・ポリシーを適用可能 ・異なるリダクション・ポリシーを同じ列に適用不可 |
|
リダクションの種類 | リダクションのタイプ | ・リダクション方法 ・後述する表2のいずれかのリダクション方法を選択 |
パラメータ | ・リダクション方法ごとに固有のパラメータ値を指定 | |
リダクションを実行する条件 | ポリシー式 | ・リダクションする条件 ・SYS_CONTEXT関数などを使用してブール型SQL式を記述(ユーザ定義関数は使用不可) ・式の評価結果がTRUEの場合にリダクションを実行 |
リダクション・ポリシーを作成する際には、リダクションの要件に最も適したポリシーを検討しておく必要があります。また、リダクション・ポリシーの定義には制限事項があるため、その特徴を十分に把握しておくことが重要です。
Oracle Data Redactionで実現できるリダクションの種類を紹介します。Oracle Data Redactionでは様々なケースに対応できるように5種類のリダクション方法が提供されています。
表2:リダクション方法の一覧
方法 | 特徴・概要 | 変換前 | 変換後 | 主な用途 |
完全 | 列データの内容をすべてリダクション | 10/09/2013 ABCDEFG 12345678 |
01/01/2001 BBB CCC |
全ての値をリダクションしたい場合 ・パスワード |
部分 | 列データの一部をリダクション | 123-456-789 | ***-***-789 | 列データの一部をリダクションしたい場合 ・カード会員番号 ・電話番号 |
正規表現 | 正規表現を使用して列データの一部をリダクション | otn@abc.jp ora@zyx.jp cle@123.co.jp |
xxx@abc.jp xxx@zyx.jp xxx@123.co.jp |
文字の長さが変化する場合 ・メールアドレス |
ランダム | ランダムに生成する値でリダクション | ABCDEFG ABCDEFG ABCDEFG |
DAESKED OIEMADS QPOIXWL |
リダクションされていることを悟られたくない場合 |
NULL ※12cR2 新機能 |
列データの内容をNULL値で表示するリダクション | 10/09/2013 ABCDEFG 12345678 |
結果を null (空白)で返したい場合 |
これらリダクション方法の設定は、DBMS_REDACTパッケージ・プロシージャを使用して、コマンドでリダクション・ポリシーを定義する方法と運用管理ツール(Oracle Enterprise Manager Cloud Control)より、画面操作で定義する方法が提供されています。
以降では、先に用例として挙げたPCI DSSのPANのマスキング要件をもとにコマンドによる設定例を紹介します。
ここでは、図2で示すように管理者以外のユーザがクレジット会員テーブルを参照した際に、NAME列とPAN列がリダクションされるように実装してみたいと思います。
【図2:リダクション・ポリシーの設定イメージ】
まず、図2の要件(イメージ)を満たすようにクレジット会員テーブルのリダクション・ポリシーを表3のとおりに設計します。
表3:クレジット会員テーブルのリダクション・ポリシー定義
項目 | 値 | 備考 | |
ポリシー名 | CREDIT_MEMBER_POLICY | クレジット会員テーブルに適用するリダクション・ポリシー名 | |
スキーマ名 | ADMIN | クレジット会員テーブルの所有者 | |
オブジェクト名 | CREDIT_MEMBER | クレジット会員テーブルの名前 | |
列1 | 列名 | NAME | リダクション対象の列名 |
リダクションのタイプ | DBMS_REDACT.FULL | 完全リダクション | |
パラメータ | なし | 表示させる文字 ‘-(ハイフン)’ は、データ型ごとに別途定義 | |
列2 | 列名 | PAN | リダクション対象の列名 |
リダクションのタイプ | DBMS_REDACT.PARTIAL | 部分リダクション | |
パラメータ | VVVVFVVVVFVVVVFVVVV,VVVV-VVVV-VVVV-VVVV,*,1,12 | 最初の12桁をリダクション | |
ポリシー式 | SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') != ''ADMIN''' | 管理者(ADMIN)ユーザ以外に適用 |
設計したリダクション・ポリシーを実装していきます。リダクションを定義するには、DBMS_REDACT.ADD_POLICYプロシージャを使用し、リダクション・ポリシーを作成します。このプロシージャを実行するためには、DBMS_REDACTパッケージに対するEXECUTE権限が必要です。リダクション・ポリシーを作成するDBユーザ(本例ではクレジット会員テーブルを所持する”ADMIN”ユーザ)に権限を付与します。
SQL> GRANT EXECUTE ON SYS.DBMS_REDACT TO ADMIN;
ADMINユーザでDBに再接続し、リダクション・ポリシーを作成します。なお、作成時に指定できるリダクション対象列は、1つのため、先にPAN列の部分リダクションの定義を行い、後からNAME列の完全リダクション定義を追加します。
SQL> BEGIN
2 DBMS_REDACT.ADD_POLICY(
3 object_schema => 'ADMIN',
4 object_name => 'CREDIT_MEMBER',
5 column_name => 'PAN',
6 policy_name => 'CREDIT_MEMBER_POLICY',
7 function_type => DBMS_REDACT.PARTIAL,
8 function_parameters => 'VVVVFVVVVFVVVVFVVVV,VVVV-VVVV-VVVV-VVVV,*,1,12',
9 expression => 'SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') != ''ADMIN''');
10 END;
11 /
このリダクション・ポリシー作成で使用したDBMS_REDACT.ADD_POLICYプロシージャのパラメータの詳細は、表4のとおりです。
表4:DBMS_REDACT.ADD_POLICYで指定するパラメータ
パラメータ | 設定値 | 説明 |
object_schema | ADMIN | テーブルを所有するスキーマ |
object_name | CREDIT_MEMBER | ポリシーを追加するテーブルまたはビューの名前 |
column_name | PAN | リダクションする列 |
policy_name | CREDIT_MEMBER_POLICY | ポリシー名 |
function_type | DBMS_REDACT.PARTIAL | リダクションのタイプ 「部分リダクション」を設定 |
function_parameters | VVVVFVVVVFVVVVFVVVV,VVVV-VVVV-VVVV-VVVV,*,1,12 | ファンクションのパラメータ値 「1文字目から12文字目をリダクション」設定 ※最後の4桁はリダクションされない |
Expression | SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') = ''OPERATOR'' | ポリシー式 TRUEと評価された場合にリダクションを実行する 「DBユーザがADMIN以外であればTRUE」を設定 |
次に、作成したリダクション・ポリシー(CREDIT_MEMBER_POLICY)にNAME列の完全リダクションの定義を追加します。リダクション対象の列を追加する際には、DBMS_REDACT.ALTER_POLICYプロシージャを利用します。
表5:DBMS_REDACT.ALTER_POLICY文で指定するパラメータ
パラメータ | 設定値 | 説明 |
object_schema | ADMIN | 表を所有するスキーマ |
object_name | CREDIT_MEMBER | ポリシーを追加する表またはビューの名前 |
column_name | EMPID | リダクションを適用する列 |
policy_name | RED_TAB1_POLYICY | ポリシー名 |
function_type | DBMS_REDACT.FULL | リダクションのタイプ 「完全リダクション」を設定 |
Action | DBMS_REDACT.ADD_COLUMN | 実行するアクション 「リダクション・ポリシーに列を追加」を設定 |
SQL> BEGIN
2 DBMS_REDACT.ALTER_POLICY(
3 object_schema => 'ADMIN',
4 object_name => 'CREDIT_MEMBER',
5 column_name => 'NAME',
6 policy_name => 'CREDIT_MEMBER_POLICY',
7 action => DBMS_REDACT.ADD_COLUMN,
8 function_type => DBMS_REDACT.FULL);
9 END;
10 /
完全リダクションされる値は、データ型ごとに定義します。デフォルトでは、NUMBERデータ型の列はゼロ(0)で、文字データ型の列は1つのスペース( )で表示されます。ここでは、VARCHARデータ型が‘-’(ハイフン)でリダクションする設定を行います。
DBMS_REDACT.UPDATE_FULL_REDACTION_VALUESプロシージャを使用することにより、このデフォルト値を変更できます。
SQL> EXEC DBMS_REDACT.UPDATE_FULL_REDACTION_VALUES (varchar_val => '-');
変更した内容を反映するためには、DBインスタンスの再起動が必要です。DBインスタンス再起動に必要な権限が付与されたユーザに切り替えて、再起動を行います。
SQL> shutdown immediate SQL> startup
リダクション・ポリシーが定義できたら、実際に各ユーザで、クレジット会員テーブルを参照してみましょう。ここでは、事前にオペレータおよびゲストユーザが作成されており、クレジット会員テーブルへのオブジェクト参照の権限が付与されているものとします。
SQL> SHOW USER
USER is "OPERATOR"
SQL> SELECT * FROM ADMIN.CREDIT_MEMBER;
NAME PAN
-------- --------------------
- ****-****-****-4444
- ****-****-****-8888
ご覧のとおり、NAME列は、’-(ハイフン)’で表示され、PAN列は最後の4桁を除き、リダクションされていることが確認できます。次に管理ユーザ(ADMIN)でクレジット会員テーブルを参照した場合の動作を確認します。
SQL> SHOW USER
USER is "ADMIN"
SQL> SELECT * FROM ADMIN.CREDIT_MEMBER;
NAME PAN
-------- --------------------
Sugimoto 1111-2222-3333-4444
Okano 5555-6666-7777-8888
ポリシー式の条件(DBユーザがADMIN以外であればTRUE)を満たさないため、リダクションされずに表示されていることが確認できます。
このように、どのユーザでリダクションが行われるかどうかの判定は、ポリシー式(expression)によって制御できることを確認いただきました。このポリシー式(expression)が12cR2の新機能に大きく関連します。
以降で、これまでのリリースにおけるOracle Data Redactionの課題を踏まえ、12cR2の新機能を紹介します。
● Point:リダクションされないケース 以下条件を満たす場合、ポリシーが作成されていてもリダクションされないため注意してください。 1. SYSDBA権限を使用してログインしているユーザ 2. EXEMPT REDACTION POLICYシステム権限が付与されているユーザ 3. バックアップおよびリカバリ、Oracle Data Pumpエクスポート/インポート、Oracle Data Guard操作、レプリケーションなどの操作
● Point:リダクションされないケース
以下条件を満たす場合、ポリシーが作成されていてもリダクションされないため注意してください。
1. SYSDBA権限を使用してログインしているユーザ
2. EXEMPT REDACTION POLICYシステム権限が付与されているユーザ
3. バックアップおよびリカバリ、Oracle Data Pumpエクスポート/インポート、Oracle Data Guard操作、レプリケーションなどの操作
ここまで、Oracle Data Redactionの機能や使い方を簡単に紹介してきましたが、以降では、1.2で紹介したリダクション・ポリシーの制限事項(表またはビューに定義できるポリシーは1つなど)に起因する12cR1までのリリースにおける課題を2つ紹介します。
1つ目のケースは、リダクション対象列ごとに異なるポリシー式を適用したい場合です。例えば、図1で紹介した構成に、以下のようなユーザ追加の要件が発生したと仮定します。
[要件]
この要件を満たすように構成するには、列ごとにDBユーザで条件分岐するポリシー式(実行条件)を定義する必要がありますが、ポリシー式には、以下制限があります。
また、リダクション対象列ごとに異なるポリシー式を定義したリダクション・ポリシーを複数作成すれば要件を満たせますが、「表またはビューに定義できるポリシーは1つ」の制限に抵触します。
【図3:Oracle Data Redactionの制限】
このケースの解決策の1つとして、12cR1までのリリースでは、以下の図4のようにユーザごとにビューとリダクション・ポリシーを作成し、ビューに対してポリシー式が異なるリダクション・ポリシーを設定することで実現する方法があります。
【図4:リダクション対象列ごとに異なるポリシー式を適用する方法(DB12cR1まで)】
しかしながら、この方法では、ユーザごとに参照するビューを切り替える仕組みをアプリケーションなどで実装する必要があります。これでは、アプリケーションへの影響を極小化するOracle Data Redactionのメリットが損なわれてしまいます。
このようにポリシー式(実行条件)を柔軟に定義できないことが1つ目の課題です。
2つ目は、リダクション・ポリシーの変更管理に関する課題です。図5で示すようなリダクション・ポリシーが定義されている構成で、リダクション・ポリシーを適用するユーザの変更が生じた場合、ポリシー式の実行条件を変更する必要があります。
【図5:リダクション・ポリシー変更管理の課題】
同様な構成の表またはビューに対して、リダクション・ポリシーが適用されている場合、多数のリダクション・ポリシーを修正する必要があり、運用管理のコストが増えてしまうことが懸念されます。
これが2つ目の課題となります。
12cR2ではこれらの課題に対して、どのような解決策が用意されたのか、詳細を以降に記載したいと思います。
先に挙げた課題の解決につながる新機能として、12cR2では、名前付きポリシー式の機能が実装されています。
名前付きポリシー式は、図6で示すように複数の表およびビューの列に紐付く、ポリシー式のライブラリのようなものとなります。
【図6:名前付きポリシー式の特徴】
類似するポリシー式を持つ複数の表のリダクション対象列を名前付きポリシー式の対象列に紐付けることで、ポリシー式を共通化し、集中管理することができます。
また、リダクション・ポリシーのポリシー式との大きな違いとして、名前付きポリシー式は表単位ではなく、列単位で紐付くため、より柔軟なリダクション・ポリシーの設定が可能となります。
その他、名前付きポリシー式の特徴は以下のとおりです。
この名前付きポリシー式を使用することで、先に挙げた課題に対して、どのようにして対応できるのか、次項で説明します。
先に挙げた課題を思い出してください。1つ目は、リダクション対象列ごとに異なるポリシー式の適用に関する課題です。この課題は、リダクション対象列ごとにDBユーザで条件分岐するようなポリシー式(実行条件)を定義できない制限に起因する内容でした。また、その解決案としてユーザごとにビューと異なるポリシー式を定義したリダクション・ポリシーを作成する方法を紹介しましたが、アプリケーションの改修が発生するデメリットがありました。
この課題は、図7で示すように名前付きポリシーを構成することで、アプリケーションの改修を行わずに解決することができます。
【図7:名前付きポリシー式による課題解決】
具体的には、図8のようにリダクション・ポリシーと名前付きポリシー式を定義します。
【図8:名前付きポリシー式の定義イメージ】
NAME列に対応する名前付きポリシー式を作成し、GUESTユーザに対してのみリダクションされるようにポリシー式を定義します。また、PAN列は、名前付きポリシー式を利用せず、リダクション・ポリシー作成時に指定したポリシー式をそのまま使います。
このようにリダクション・ポリシーと名前付きポリシーを定義することで、リダクション対象列ごとに実行条件を変更することが可能となり、アプリケーションを改修することなく課題を解決できます。
次に、リダクション対象の表やビューが増えることで、管理するポリシーが増加する二つ目の課題がありました。この課題は、図6で示したように名前付きポリシー式を1つ作成し、各リダクション・ポリシー内の列と関連づけることで対応が可能です。
名前付きポリシー式の実行条件は、リダクション・ポリシーのポリシー式より優先されることから、一度の名前付きポリシー式の修正で、複数のリダクション・ポリシーの実行条件を容易に変更・管理できるようになります。これにより、変更作業に伴うミスの軽減や管理コストの削減につながることが期待でき、運用管理コストの軽減につながります。
名前付きポリシー式の導入により、表単位ではなく、列単位による、より細かな実行条件の指定が可能となり、使い方によってはすべてのリダクション・ポリシーの実行条件を集中管理することも可能となるなど、メリットが大きいことがご理解いただけたのではないかと思います。
実際に名前付きポリシー式の作成方法を紹介します。
ここでは、「1.4.リダクション・ポリシーの設定例」で紹介した設定例をもとに「3.1.2.名前付きポリシー式による解題解決」で紹介した図7のように、オペレータはPAN列のみリダクションされ、ゲストはNAME列もリダクションされるように名前付きポリシー式を定義してみます。
まず、名前付きポリシー式を作成していきます。名前付きポリシー式は、DBMS_REDACT.CREATE_POLICY_EXPRESSIONプロシージャを使用します。ここでは、以下の内容で条件式を定義します。
表6:DBMS_REDACT.CREATE_POLICY_EXPRESSIONで指定するパラメータ
パラメータ | 設定値 | 説明 |
policy_expression_name | EX_CREDIT_MEMBER_POLICY | 名前付きポリシー式の名前 |
Expression | SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') = ''GUEST''' | ポリシー式 「DBユーザがGUESTであればTRUE」を設定 |
SQL> BEGIN
2 DBMS_REDACT.CREATE_POLICY_EXPRESSION(
3 policy_expression_name => 'EX_CREDIT_MEMBER_POLICY',
4 expression => 'SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') = ''GUEST''');
5 END;
6 /
作成した名前付きポリシー式をクレジット会員テーブルのNAME列に紐付します。紐付けにはDBMS_REDACT.APPLY_POLICY_EXPR_TO_COLを使用します。 ここでは、以下の内容を指定します。
表7:DBMS_REDACT.APPLY_POLICY_EXPR_TO_COLで指定するパラメータ
パラメータ | 設定値 | 説明 |
object_schema | ADMIN | 表を所有するスキーマ |
object_name | CREDIT_MEMBER | 列を所有する表またはビューの名前 |
column_name | NAME | ポリシー式を適用する列 |
policy_expression_name | EX_CREDIT_MEMBER_POLICY | 紐付ける名前付きポリシー式の名前 |
SQL> BEGIN
2 DBMS_REDACT.APPLY_POLICY_EXPR_TO_COL(
3 object_schema => 'ADMIN',
4 object_name => 'CREDIT_MEMBER',
5 column_name => 'NAME',
6 policy_expression_name => 'EX_CREDIT_MEMBER_POLICY');
7 END;
8 /
これで、名前付きポリシー式(EX_CREDIT_MEMBER_POLICY)の実行条件がクレジット会員テーブルのNAME列に適用されることになります。
それでは、最後に想定どおりにオペレータ(OPERATOR)は、PAN列のみリダクションされ、ゲスト(GUEST)はNAME列とPAN列の両方がリダクションされているか確認します。
SQL> SHOW USER
USER is "OPERATOR"
SQL> SELECT * FROM ADMIN.CREDIT_MEMBER;
NAME PAN
-------- --------------------
Sugimoto ****-****-****-4444
Okano ****-****-****-8888
オペレータは、PAN列のみリダクションされていることが確認できます。次にゲスト(GUEST)を確認します。
SQL> SHOW USER
USER is "GUEST"
SQL> SELECT * FROM ADMIN.CREDIT_MEMBER;
NAME PAN
-------- --------------------
- ****-****-****-4444
- ****-****-****-8888
NAME列とPAN列の両方がリダクションされており、こちらも想定どおりに動作していることが確認できます。最後に管理者(ADMIN)ユーザからの接続がリダクションされないことを確認します。
SQL> SHOW USER
USER is "ADMIN"
SQL> SELECT * FROM ADMIN.CREDIT_MEMBER;
NAME PAN
-------- --------------------
Sugimoto 1111-2222-3333-4444
Okano 5555-6666-7777-8888
以上が名前付きポリシー式の使い方となり、図7のとおりに設定が行えたことを確認しました。
12cR2における大きな変更点としては、上述した名前付きポリシー式の追加が挙げられますが、その他にも新機能が追加されていますので、簡単に紹介します。
NULLリダクションが追加されており、リダクション結果としてNULLとすることが可能になりました。リダクション・ポリシーを作成する際のfunction_typeにNULLIFYを指定します。
表8:NULLリダクションを使用する際に指定するパラメータ
パラメータ | 設定値 | 説明 |
function_type | DBMS_REDACT.NULLIFY | リダクションのタイプ 「NULLリダクション」を設定 |
リダクションの結果として、何も表示させたくない場合などに利用できます。
従来のリリースから、正規表現を使用し、メールアドレスの@以前のみリダクションするといった設定は可能でしたが、12cR2からはこの設定をCLOB型やNCLOB型の列に対しても設定できるようになりました。
ポリシー式の実行条件に使用できる演算子が拡張され、「AND,OR, IN, NOT IN」を含められるようになりました。
この拡張により、リダクション・ポリシーおよび名前付きポリシー式の実行条件の指定において、INを使用して複数のユーザを対象とする使い方も12c R2から実装可能になりました。
例:
expression => 'SYS_CONTEXT(''USERENV'',''SESSION_USER'') IN (''OPERATOR'',''GUEST'')');
12cR1までのOracle Data Redactionと比較し、名前付きポリシー式の登場やリダクションの実行条件での使用可能文字の拡張により、リダクション対象をより細かに設定することが可能になった点をご理解頂けたと思います。
それにより、従来のリリースでの課題も緩和し、より使いやすい機能に進化したことがわかります。
本稿がOracle Database 12cR2におけるセキュリティ対策の一助けになれば幸いです。