AIモデルのトレーニングに関する6つの一般的な課題

Mike Chen | コンテンツ・ストラテジスト | 2023年10月25日

モデルのトレーニング・プロセスはAIプロジェクトごとに異なります。スコープ、オーディエンス、技術リソース、財務上の制約、さらには開発者の迅速性やスキルまでも複雑に絡み合い、様々な課題を生み出します。

モデル・トレーニングの難易度はそれぞれに固有ですが、いくつかの共通するテーマが存在します。この記事では、AIモデルのトレーニングに見られる最も一般的な6つの問題を確認し、開発チームと組織全体の両方のための解決策と回避策を提供します。

AIモデルのトレーニングが難しい理由

AI関連リソースの急速な拡大しているにもかかわらず、AIモデルのトレーニング・プロセスは依然として困難です。一部の課題は問題の急増につながっており、リソースがより強力になり、入手可能になるにつれて、AIモデルは複雑さを増しています。モデルの正確さやスケーラビリティが問題になります。

主なポイント

  • AIモデルのトレーニングの課題は、組織全体の幅広い要因に関係があり、技術的な問題だけではない可能性があります。
  • 多くの場合、技術的な課題は、トレーニング・データセットを拡張するか、外部クラウド・リソースを追加して、より多くのコンピュート能力を確保することで解決します。
  • これらの課題を克服するには、技術的な専門知識、柔軟なプロセス、関係者間のコラボレーションの文化を組み合わせる必要があります。

AIモデルのトレーニングに関する6つの一般的な課題

初期のプロジェクトの範囲決定から最終的な稼働開始のための導入まで、AIモデルのトレーニングには、さまざまな部門が関与します。技術的な観点からは、IT部門はハードウェア・インフラストラクチャの要件を理解する必要があり、データ・サイエンティストはトレーニング・データセットのソーシングを検討する必要があり、また開発者は他のソフトウェアおよびシステムへの投資を重視する必要があります。

組織の観点から見ると、AIプロジェクトのタイプによって、プロジェクトの影響を受ける業務部門が決まり、マーケティング、営業、人事、その他のチームは、プロジェクトの目的、範囲、または目標に関する情報を入力する必要がある場合があります。

これは、AIモデルのトレーニングには、多くの人々が関与することを意味します。関与する人数が増えるほど、制約や変数が増え、組織の課題も増えます。以下のリストは、AIモデルのトレーニング中に生じる最も一般的な6つの課題について詳しく説明するものです。

AIモデルのトレーニングの課題には、技術的な問題と組織的な問題があります。この図は、今日の組織が直面する一般的な問題を示します。

この図は、AIモデルのトレーニングに関する6つの課題を示しています。

  • ハードウェアとソフトウェア: ハードウェアのリソースや機能に関する制限と互換性のないソフトウェア
  • アルゴリズム: モデル・タイプの選択、オーバーフィッティング、またはアンダーフィッティング
  • データセット: 不十分なデータ、不均衡なデータ、または低品質のデータ
  • タレント・プール: スキルのあるAI技術者を求める過熱する求人市場と激しい競争
  • プロジェクト管理: 部門間のコミュニケーション・ギャップと期待の不一致
  • データ管理: 組織全体のセキュリティ、プライバシー、アクセス、所有権に関する懸念

1. データセットに関連する課題

トレーニング・データセットは、あらゆるAIモデルの基盤です。つまり、トレーニング・データセットの品質と幅によって、AIによって生成されるデータの正確性(または逆に正確性の不足)が決まります。データに関する問題には、次のようなものがあります。

  • 不均衡なデータ: 不均衡なデータは、AIトレーニング・モデルに偏りを生み出します。たとえば、衣料品小売業者のAIモデルで靴に関するデータのみを使用した場合、そのモデルはシャツやドレスのサイズ設定のみで作成された変数を処理できません。
  • 不十分なデータ: AIトレーニング・モデルに少量のデータのみを使用した場合、モデルの予測精度はきわめて限定されます。プロジェクトでは、結果を十分に改善し、偏りを取り除くために十分な量のトレーニング・データが必要です。そうでないと、一部のステップを欠いたまま、目的地へ向かうようなものです。
  • 低品質のデータ: 不均衡なデータは予測と結果に偏りを生み出しますが、低品質のデータは全体的な不正確さにつながります。データ提供元の品質を調べることは最初の重要なステップです。

2. アルゴリズムに関連する課題

トレーニング・データセットがAIモデルの基盤であるとすると、アルゴリズムはモデルの主構造に相当します。AIモデルから正確な結果を一貫して得るために、開発者は、プロジェクトのニーズに合うようにアルゴリズムの作成とトレーニングを慎重に行う必要があります。

  • 適切なアルゴリズムの選択: プロジェクトに適したアルゴリズムはどれでしょうか。さまざまなAIアルゴリズムを出発点として使用でき、それぞれに長所と短所があります。たとえば、ロジスティック回帰アルゴリズムでは、プロジェクトを迅速に進めることができますが、バイナリの結果しか得られません。スコープ、結果、リソース使用の適切なバランスをすべて考慮することによって、プロジェクトに最適な選択肢が決まります。
  • オーバーフィッティング: オーバーフィッティングとは、AIモデルが特定の結果に適合しすぎて、スコープ内の他の結果を見逃すことです。このような状況は、トレーニング・データセットが少なすぎる、トレーニング・データセットが均一である、モデルが非常に複雑で誤解や「データ・ノイズ」につながるなど、さまざまな理由で発生します。
  • アンダーフィッティング: アンダーフィッティングは、AIモデルが、トレーニング不足のため、非常に限られた状況でのみ正確な結果を提供する場合です。アンダーフィッティングの一般的な例は、モデルが初期トレーニング・データセットでは適切に機能するが、それ以上の検証と実際のデータの両方で失敗する場合です。アンダーフィッティングは、プロジェクトの目標に対してモデルが単純すぎる場合や、トレーニング・データセットを使用する前に適切にクリーニングしなかった場合に発生することがよくあります。

3. ハードウェアとソフトウェアに関する課題

IT部門は、AIモデルのトレーニングをサポートする際に、ハードウェアやソフトウェアに関する課題に直面します。障害となる可能性があるものには、AIプロジェクトを最後まで管理するために必要な十分な計算能力、ストレージ容量、データ・リソース、互換性ツール、統合ツールなどを確保することが含まれます。

全体的に見ると、AIモデルのトレーニングを成功させるには、非常に大規模なデータセットを管理する必要があります。つまり、IT部門は、トレーニング担当者のために十分なデータ・ストレージ、必要なアクセス権限、データ管理システム、および互換性のあるソフトウェア・ツールとフレームワークが準備されていることを確認する必要があります。

  • ハードウェア・リソース: 大規模なデータセット(特に医療研究などの非常に複雑なモデルのデータセット)の処理および分析を扱うには、IT部門が十分な高パフォーマンスのサーバーとストレージ・システムを確保する必要があります。AIモデルのトレーニングには強力な計算能力が必要であるため、組織は、プロジェクトのスコープが利用可能なリソースと一致していることを確認する必要があります。
  • ソフトウェアの考慮事項: AIトレーニング・プロジェクトでは、アップストリームとダウンストリームの両方で、いくつかの専門的なソフトウェア・ツール、フレームワーク、およびシステムを統合する必要があります。これにより、互換性のチェックがプロジェクトの初期段階の重要な作業になります。これは、専門的なツールを既存のITシステムに統合することは複雑なタスクになる可能性があるからです。

4. スキルを持った人材の採用に関する課題

AIモデルのトレーニングを開発、管理、および反復するには、さまざまな技術分野にまたがる専門的なスキルセットを持った人材が必要です。いずれかの分野の経験が不足していると、トレーニング・プロセスが計画どおりに進まず、最終的にプロジェクトのやり直しにつながる可能性があります。

  • AI人材の需要: 開発者やデータ・サイエンティストからなる優秀なチームを構築するには、賢明に採用することが必要です。しかし、AIや機械学習のスキルは需要が高いため、適切な人材を雇用するには、組織は競争の激しい採用プロセスに取り組むことが強いられる可能性があります。したがって、雇用主は迅速に行動することによって、質の高い人材を特定し、市場の需要状況に遅れないようにする必要があります。最適な人材を獲得するには、AIセンター・オブ・エクセレンスを立ち上げるなどして、テクノロジーへの取り組みを示すとよいでしょう。
  • トレーニングを受けたAIプロフェッショナルの不足: 脆弱な開発チームでAIプロジェクトを開始すると、仮に完了に至っても、その取り組みは常に不正確または偏ったものになる可能性があります。トレーニングを受けた専門家が不足したままプロジェクトを進めることは、時間と費用が無駄になるため、人材とテクノロジーの両方に対して投資する準備を整えてください。

5. AIプロジェクトの管理に関する課題

エンタープライズAIプロジェクトは、コストがかかり、リソースを大量に消費する取り組みになる可能性があります。モデル開発、データソース・キュレーション、AIモデル・トレーニングの差し迫った懸念に加えて、管理には財務、テクノロジー、およびスケジューリングの適切なバランスを監視することが必要です。

  • コミュニケーション・ギャップ: どのような業界でも効果的なプロジェクト管理には、しっかりとしたコミュニケーションが必要ですが、AIプロジェクト・マネージャーは、IT、法務、財務などの多くのチームや、プロジェクトのエンド・ユーザーと連携する必要があります。コミュニケーション・ギャップは、波及効果をもたらす問題につながる可能性があり、正確性、時間、費用、またはそれらすべてを失う可能性があります。
  • 期待の不一致: 世間一般では、AIの可能性に過剰に期待しています。このような期待を現実的なものにするには、AIプロジェクトの目的、目標、機能に関するチーム・リーダーからの効果的なコミュニケーションが必要です。こうしたコミュニケーションが不足していると、ユーザーはプロジェクトの実用性や限界を理解できない場合があります。

6. データ管理の課題

AIトレーニングの状況では、データ・セキュリティのさまざまな要素が各段階で適用されます。それらの総合的な影響で、データ管理に関連する一連の課題が生じます。

  • データのアクセス権限と所有権: トレーニング・データにアクセスできるのは誰ですか。トレーニング結果を見ることができるのは誰ですか。誰がプロセスをキュレーション、アーカイブ、管理しますか。これらの質問をすべて考慮する必要があります。役割ベースのアクセス権限を使用するなど、適切なデータ管理戦略がなければ、プロジェクト・ロジスティクスはほとんど前進しない可能性があります。そして、このような障害がセキュリティ上の問題の原因になる可能性があります。
  • データ・プライバシーとセキュリティ: トレーニング・データセットには、個人情報、財務情報、機密性の高い企業計画などの機密データが含まれる場合があります。プライバシーを確保するには、トレーニング・データと出力データの両方で暗号化またはクリーニング(あるいはその両方)が必要になる場合があります。さらに、特にプロジェクトが公開リソースまたは外部リソースを含む場合、トレーニング時と導入時の両方において、標準的なサイバーセキュリティ上の懸念がAIモデルに適用されます。

AIモデルのトレーニングに関する課題の克服

AIモデルのトレーニング・プロセスでは、あらゆる側面から課題が生じる可能性があります。ハードウェア・リソース、アルゴリズムの実用性、またはデータセットに関する技術的な問題により、開発者は「これを実現するには、どうすればいいのだろう」と疑問に思う場合があります。

これらの課題を克服するには、プランニング、スマート・リソースの使用、そしておそらくこれが最も重要ですが、徹底した包括的なコミュニケーションを頻繁に行うことが必要です。

テクノロジーを賢く使うことも助けになります。

テクニカル・ソリューション

AIモデルのトレーニングにおける技術的な障害は、さまざまな原因で生じる可能性があります。モデル・タイプによっては、組織が提供可能な量を超えるリソースが必要になる場合があります。また、トレーニング・データセットが正しく準備されていない場合や、モデルに必要なトレーニング・データセットの量が、使用可能な量を上回る場合があります。以下の3つの手法は、一般的な技術的課題の克服に役立つ可能性があります。

  • データ拡張: AIモデルに、より多くのトレーニング・データセットや、データセットのより広範な多様性が必要でありながら、それ以上のリソースにアクセスできない場合、チームは独自のデータセットを生成できることがあります。データ拡張とは、特定の目標を考慮したモデル・トレーニングをさらに実施するために、トレーニング・データセットを手動で拡張するプロセスを指します。
  • 正則化: オーバーフィッティングは、AIモデルのトレーニング中に見られる最も一般的な問題の1つです。正則化は、トレーニング・データセット内でそれを相殺する手法です。正則化では、よりシンプルで正確な出力を生み出すさまざまな最適化を通じて、モデルを調整し、オーバーフィッティングを相殺します。一般的な正則化手法には、リッジ回帰、ラッソ回帰、弾力ネットなどがあります。
  • 転移学習: 転移学習を使用すると、開発者は、既存のアルゴリズムを開始点として使用し、いくつかのステップをスキップできます。転移学習が成功するかどうかは、いくつかの要因に左右されます。まず、同様のプロセスを成功させながら、新しいプロジェクトのコンテキストに適応できる柔軟性を備えている実行可能なモデルが存在する必要があります。さらに、プロジェクトのスコープと目標が既存の作業に適応できる必要があります。

組織に関するソリューション

どの組織においても、AIモデルの成功には、技術的な専門知識だけでは十分ではありません。財務や目標などの非技術的な問題を含め、トレーニング・プロセス中には、さまざまな関係者が関与する可能性があるため、プロジェクトの成功には、組織全体の関与がしばしば大きな影響を及ぼします。したがって、統一的な体制を構築すること自体が課題です。

以下に、スムーズに機能する組織プロセスを実現するための実践的な方法をいくつか示します。

  • 明確なコミュニケーション・チャネルを確立: AIプロジェクトでは、異なるチームにまたがるさまざまなスキルセットが必要な場合があります。通常、これらのチームの連携が取れていないときに、課題が生じる可能性があります。したがって、プロジェクトの目標、スコープ、および作業頻度に関するオープンで明確なコミュニケーションを行うことで、結束を構築し、作業の重複やステップの欠落につながる可能性のある混乱を限定できます。
  • コラボレーションの文化を促進: 成功につながるAIプロジェクトでは、異なる視点を持つ多くのさまざまな関係者が関与します。これらすべての関係者を統合的な作業チームに引き入れるには、コラボレーションの文化が必要です。創造的な解決策につながるように、必ず、建設的で相手を尊重した態度で個々の意見を表現し、それについて議論してください。
  • 継続的な学習を推奨: AI機能は過去10年間で大幅に進化しており、特に処理能力とクラウド・アクセシビリティは急速に向上しています。新しい可能性、スキル、戦略が出現するため、それらの進歩を常に把握するには、継続的な学習が必要です。チームは、現在のプロジェクトを進めながら、将来にも注意を払う必要があります。

オラクルを活用した、AIモデルのトレーニングに関する課題の克服

AIモデルのトレーニングに関する課題は、技術的な課題から組織上の課題まで多岐にわたります。幸いなことに、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)は、ほぼすべての課題の解決に貢献できる可能性があります。スケーラブルなコンピュート・リソースとストレージ・リソースは、大規模なデータセットや複雑なモデルの場合でもトレーニングを強化することができ、緻密なセキュリティ・ツールとガバナンス・ツールは、プライバシーとセキュリティに関する最新の要件を満たすのに役立ちます。

また、OCIでは、データ共有とデータソースの接続を実現でき、部門間のコラボレーションとコミュニケーションが迅速化され、開発中の透明性が高まります。OCIは、コンピュート、ストレージ、ネットワーキング、データベース、およびプラットフォームの各サービスを包括的に網羅しており、プロジェクトと組織のコストを削減しながら、AIモデルのトレーニングに対して柔軟で強力な利点を提供します。

AIモデルのトレーニングに内在する課題の克服に粘り強く取り組む組織では、AIなしでは発見が困難なインサイトに基づいて、自動化や競争力を向上させたり、まったく新しい製品やサービスを実現できる可能性があります。

ITチーム、プロジェクト・マネージャー、および経営幹部は、このような課題や、特定のケースのためのAIモデル・トレーニングを含むその他の課題を克服するためのツールを利用できます。必要なものは、創造的な考え方だけです。

組織固有のトレーニングを開始する前にAIセンター・オブ・エクセレンスを確立すると、成功の可能性が高くなります。当社のeBookでは、その理由と、効果的なCoEを構築するヒントについて説明します。

AIモデルのトレーニングの課題に関するFAQ

AIモデルの精度を向上させるために、転移学習をどのように使用すればよいですか。

AIモデルでの転移学習とは、既存のモデルを新しいプロジェクトの開始点として使用するプロセスのことです。これにより、プロジェクトをうまく開始できますが、制限があります。転移学習は、既存のモデルが一般的な状況に対処するもので、新しいプロジェクトでより具体的な状況を深く調べる場合に最も効果的に機能します。AI機能の高度化に伴い、転移学習の開始点と終了点の自由度はますます拡大すると考えられます。

組織では、AIモデルのトレーニングに関わるチーム・メンバー間のコラボレーションの文化をどのように促進すればよいですか。

組織では、AIプロジェクトを成功させるために、さまざまなスキルセットを持つチーム間のコラボレーションが必要になることがよくあります。コラボレーションを促進するために、リーダーは、すべての関係者間のオープンな形でのコミュニケーション、提案、建設的な議論と、継続的な学習の哲学を推奨する必要があります。将来の可能性に目を向けながら、「私たちが、ここに集まっている」経緯と理由を強調することで、組織は、さまざまなチーム内の全体的な結束とコミュニケーションを強化することができます。

AIモデルのトレーニング中に、組織がハードウェアやソフトウェアの制限を克服するには、どうすればよいですか。

多くの異なるソリューションによって、ハードウェアやソフトウェアの制限を克服できます。一部の制限については、経験豊富な人物を内部スタッフに割り当てて、特定のモデルの評価や改善を行うなどして、組織内で克服できる場合もあります。別の例として、トレーニング・データセット自体に問題がある場合があります。その場合、リソースへの影響を制限するために、適切なクリーニングおよび準備が必要になることがあります。また別の状況では、クラウドベースのインフラストラクチャ・プラットフォームなどの外部リソースを使用すると、チームの規模を変更するのが容易になり、コンピュート需要により柔軟に対応できます。