デジタル田園都市国家構想のもとに日本各地でデジタル化、スマートシティの取り組みが進む中、目標設定としての住民の幸福感(Well-Being)の重要性が認識されています。
こうした状況にあって、テクノロジーベンダーとしてスマートシティ事業を進める弊社としてどのような役割が求められるのか、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI)南雲岳彦専務理事にお話を伺いました。
大きく4つの事業があります。1点目は、デジタル庁と進めている地域幸福度指標(Well-Being指標)の改訂でして、ユーザーフレンドリーさを重視して、主観的幸福感に関するアンケートの質問数を50問に絞り込みました。
改訂版では、約85,000人へのアンケート結果を誰でもアクセス可能なダッシュボードとして無料で一般公開しています。2点目は今年もバルセロナで開催される、スマートシティエキスポ・ワールドコングレスへのジャパンパビリオンの出展。今年は昨年よりスケールアップする予定であり日本を海外に発信する活動を進めています。
3点目と4点目は人材育成に関わるもので、オンラインの学校であるC-R MAP(City-Region Mutually-supportive Agile & Participatory
Program)と、対面型研修のOASISです。これらのプログラムは、スマートシティなどの都市経営人材を目的としたもので、自治体と民間企業の次世代リーダーの育成を目指すものです。
20程度の先行自治体は「検討モード」ではなく「実装モード」に入ってきています。導入・実証フェーズまで入れれば100団体くらいになってきており、「2025年までに100地域」という政府目標は達成されそうな勢いです。
こうした取組みはコロナ後加速しており、ヨーロッパとは最早イーブンなところまで来ています。一方、先行していた中国、韓国では急速に進めたスマート化に対する市民参加意識の醸成が課題になっているという声が聞こえています。そしていま急速に世界のトップになろうとしているのは、サウジアラビアなどの中東諸国。オイルマネーを使ってリゾートとデジタルの掛け算をしており、コペンハーゲン、アムステルダムといったヨーロッパの先行事例を超えていくのか地政学的にも注目しています。
例えば前橋市のように、参画している民間企業が熱意を持って同じ方向を向いているところはうまくいっている一方、短期利益重視で集まったコンソーシアムではなかなかうまくいっていないという印象です。
多くの自治体が共通的に抱えている課題としては、「データ連携基盤の構築」、「マネタイズ」、「市民参画」の3点ではないでしょうか。マネタイズに関しては、いわゆるデジタルガバメントに関する公共財=公助の領域であれば税金投入をすべきですが、サブスクリプションモデル等が成立するところは民間企業のビジネスモデルを活用すべきと思います。例えば、SpotifyやUberなどのサービスは、デジタル化という側面ではスマートシティの範疇と呼べるのではないでしょうか。
デジタルテクノロジーだけがあってもうまくいくとは限らず、市民参加ができるだけの時間的ゆとり、政治的信頼、コミュニティ内の寛容性、この3点が不可欠だと思います。
先進自治体が更に取組みを深化させていく方向と、自治体数を拡大していく方向の両方があります。面的拡大でいえば、デジ田交付団体は既に1,000を超えています。取組の深化という点では、世界と互角に戦うために目をつけているのが、大学、特に国際卓越研究大学や地方の大学との連携です。
Well-Beingの普及活動は広くやる必要があると思っていますが、一方で突き抜けるという意味では、大学改革、産業クラスタの再編成、スマートシティを一体で実施・改革するしかないと思います。
個人的な期待は、Well-Beingのデータ解析は終わってきていて、まちのタイプごとの因子はある程度特定できています。あとはその因子とデジタルサービスのマッピングと、デジタルモデル/データモデルのプロトタイプ化のようなことを一緒に取り組んでもらえるような民間企業が必要ではないでしょうか。例えば、ベッドタウン型、安心安全を重視する子育ての町だとして、そこで特定される幸せの因子を高めるデジタルサービスはコレ、のようなバリューマップが作れるといいと思っています。
Well-Beingの「Good
Design賞」みたいな発想があり、今度浜松ではローカルWell-Beingアワードを実施する予定です。こういった考え方を商品開発、政策デザインにつながっていくためにもOASIS研修(Well-Being
人材育成プログラム)実施しており、最近は自治体だけではなく民間企業の方も参加するようになってきました。
今後更にスマートシティを進めていくためには明確なリーダーシップ、横串し型の機構改革などが必要になるが、何よりも人材育成が大切です。データ分析をもとに地域に政策提言できるようなローカルシンクタンクみたいなものも必要だと思います。オラクルのような民間企業に是非期待しているのはWell-Beingの因子からのデータモデル、ビジネスモデルづくりとともに、人づくりの部分です。私も最近大学で学生や社会人に教えはじめていますが、10年かけてやろうと思っています。
南雲 岳彦 氏
スマートシティ・インスティテュート 専務理事
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 専務執行役員
地球環境と市民が共存し、誰もが幸福になれるグリーン&デジタルなまちづくりと国づくりに従事。
デジタル庁田園都市Well-Being指標委員会委員、内閣府規制改革推進会議等の国の審議会委員、東京都、渋谷区、加古川市、会津若松市、浜松市等自治体・民間企業のアドバイザー、IPAデジタルアーキテクチャ・デザインセンター・アドバイザリーボードメンバー、京都大学経営管理大学院客員教授、横浜市立大学大学院客員教授、専修大学客員教授、金沢工業大学客員教授、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、国際大学GLOCOM上席客員研究員、ロイヤルメルボルン工科大学シニア・フェロー等を兼任。