有識者に聞く自治体最前線の現状と課題:
人口減少時代の自治体経営

人口減少時代における自治体経営はどうあるべきか。またそのためにデジタル技術をどう活用していくか。今回は全庁的な経営戦略である「市長戦略」や、「日本一市民目線の市役所実現のための裾野市DX方針」を策定し、財政健全化と市民サービス向上の両立を目指す
裾野市長 村田 悠(はるかぜ) 氏にお話を伺いました。

着任して約1年半が経過したところかと思いますが、これまでを振り返って如何でしょうか。また、いま最も重点的に取り組まれている施策は何でしょうか。
Mr. Harukaze Murata
裾野市長
村田 悠(はるかぜ) 氏

 最も重点的に取り組んでいるのは「公約の達成」という一言に尽きると思います。この1年半、選挙公約をベースにした「市長戦略」を作成し、市役所内での浸透を図り、企業誘致、道の駅の整備、社会基盤の整備、観光の強化、子育て・教育環境の充実、公共施設再編、財政健全化、そしてDXなどあらゆる課題に取り組んでまいりました。
 強いて分野をひとつ挙げるとするならば、トップセールスでの企業誘致には力を入れています。このまちに来ていただく企業、住んでいただく方を自らの足で探しにいき、その中でこのまちに求められているニーズを把握する、そして歳入を増していく、これはトップがやらなければならないことだと思っています。
 一方、歳入を増やすだけでなく、持続的な財政運営のために義務的経費を減らしていくことも欠かせません。例えば、市営の温浴施設、運動施設、小中学校などの再編も進めています。これは単に義務的経費を減らすという観点ではなく、例えば小中学校の再編によって校舎の管理費が減った分を、次世代のこどもたちのために投資していなかなければならないと考えています。「床からヒトへ」、ということです。

 前市長が財政非常事態宣言を発出し、全新規事業の一律中止などをしていました。しかし、将来投資はしっかりやる、いらないところはカットしていく、そういったメリハリ付けや決断こそが、市長の務めだと思っています。「市長戦略」はまさに今後の資源配分の決意表明です。
「市長戦略」は、ビジョン・ミッション・綱領・重点施策から成り、これを総合計画はじめ行政計画の最上位として位置付けました。市政の方向性を明らかにすることで、市の職員はおのずとそれに向かっていくことが可能になり、実際非常によく働いてくれています。また、議会での質問も、この戦略に沿ったものをいただく事が増え、議論が活発になりました。どのまちでもこうしたものを作るべきだと思います。

そうした戦略のひとつとして行政改革、ICT活用も掲げられており、直近「日本一市民目線の市役所実現のための裾野市DX方針」 を策定されたところかと思います。
Susono City image
裾野市は静岡県東部に位置する人口約5万人の都市。箱根、富士山、愛鷹山などの山々の裾野にあり、豊かな自然に恵まれながら製造業、先端技術の研究都市としての側面も併せ持つ。南北に東名高速道路が走り、市内にある複数のゴルフ場には遠方からも来客がある。また、近年では「準高地でトレーニングができるまち」として標高の高さと首都圏からのアクセスの良さを活かしたスポーツツーリズム事業にも注力しており、観光戦略の策定と合わせた関係人口増加に向けた地域の魅力向上、プロモーションの強化にも努めている。市役所のミッションとして「日本一市民目線の市役所」と掲げ、DX方針に沿った業務改革を推進中。

 市長戦略を達成するための職員の時間があまりに足りません。「市民の時間は市民のために」「職員の時間は市民のために」がモットーです。職員の時間はフルに市民のために使う、そのためにデジタルを活用して効率的に業務を行う必要がある、そのために策定したのが裾野市のDX方針です。
 例えば、今年度始めた市役所一階の窓口予約サービスは、住民票を取りに行くなどの予約がスマートフォンからできるもので、これは「待たない」サービスです。

 更にこれからは、「書かない」「行かない」ということも実現していきたい。市役所が一番寄り添わなければならないのは、市民の皆様が悲しんでいるとき、つまり「おくやみ」の窓口はまずワンストップ化したいと思っています。いままでこのまちで暮らしてきた方への感謝の気持ち、残された方に対してどう寄り添ってあげられるのか、こうしたところから市民の満足度を上げていかなければならないし、その結果市職員のモチベーションも上がると思います。


いま自治体DX推進計画はじめ様々な行政計画が2025年をターゲットにしている中、更にその先の行政サービス像、自治体経営のあり方についてどのようなビジョンお持ちでしょうか。

 利用者が「これは行政サービスだ」と特に感じなくなるような、ひとつのタブレット、ひとつのスマートフォンで手続が完結するような、そんな時代になるのではないでしょうか。
 一方でいざという時には市役所に行ったらしっかり対応してもらえる、職員はそのためのスキルをいつでも持ち合わせていなければなりません。そういう時に一番大事なのは、市民が何を望んでいるのか、職員自身が感じ取ることです。直接会ったり聞いたりしてみなければ分からないこともあります。市長自らが出ていくのは当然ですが、職員もいろいろなイベントに参加して話を聞いたり、ひとつひとつのサービスの中でアンケートを取ったりするなど、市民の声を拾っていくこと自体が今後重要になるポイントではないでしょうか。

さまざまな施策を推進していく中で、国や県(広域自治体)などに期待することはありますか。
Susono City image

 2025年に向けたガバメントクラウドの導入や、経費3割削減目標という国の方針は、自治体にとっては非常に大きなことです。システム標準化により市町村間の格差・差異がなくなる点には期待をしてます。
 また個人的には、システムの標準化以上に、データの標準化の意義が大きいと捉えています。標準化されたデータを活用したサービスが出てくる、それが市民にプラスの影響を与える、そういった事例を作っていくことが大事ではないでしょうか。
 一方で、クラウド型のシステムを扱える人材がまだまだ少ないという課題があります。ただ、それは必ずしも各市町村で個別に解決する必要はなくて、類似自治体や独立行政法人などと連携して人材確保などを推進するといったような施策もあり得るのではないかと思います。


今後の市政運営にあたり、弊社のようなテクノロジーベンダーが果たすべき役割、期待などがあれば教えてください。

 人口減少社会の中、市の職員も十分確保できない一方、社会保障・医療などの事務は増大しています。ヒトが減る中で事務量が増える、そういう社会の中で、業務効率化のためにも市民満足度向上のためにもテクノロジーベンダーの力を借りていかなければいけないし、民間事業者は省人化・効率化が行政より進んでいると思うので、そういったノウハウを行政に活用してほしいです。
 医療、介護、福祉、税務、窓口サービス、など、市役所のありとあらゆる事務に民間のテクノロジーやノウハウは活用できると思います。一方こうした事務は、全て法律・国の業務とも密接な関係があるので、マイナンバーのその先につながる国の施策やそれがもたらす業務効率化に期待しているところです。人口減少社会においてどう国家を持続させていくか、こういったビジョンが重要になるのではないでしょうか。

村田 悠(はるかぜ) 氏
1987年裾野市生まれ。参議院議員秘書、医療法人職員等を経て、2014年裾野市議会議員初当選。2期目を経て2022年令和4年裾野市長に就任。「市長戦略」として任期中に特に達成したい施策を体系化。またその達成状況 (PDF) も公表している。

インタビュアー:

梅山 直希/事業戦略統括 戦略事業推進本部 副本部長 兼スマートシティ事業推進室長
高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター