機械学習(ML)とは、人工知能(AI)の一分野であり、使用するデータに基づいて学習する(またはパフォーマンスを改善する)システムを構築することに主眼を置いている技術です。人工知能は、人間の知能を模倣したシステムや機械を指す、広い意味の言葉です。機械学習とAIは一緒に語られることが多く、両方の単語が同じ意味で使われることもありますが、厳密には同じ意味ではありません。重要な違いは何かと言うと、機械学習のすべてはAIですが、AIは必ずしも機械学習ではないということです。
現在、機械学習は私たちの周りのすべての所で使用されています。銀行を利用する際にも、オンライン・ショッピングをする際にも、またソーシャル・メディアを使用する際にも、そのやりとりを効率的、円滑、およびセキュアにするために、機械学習のアルゴリズムが使用されています。機械学習とそれを取り巻くテクノロジーは急速に発達していますが、私たちはまだ、その機能について表面的に論じているだけに過ぎません。
アルゴリズムは、機械学習を動かすエンジンのようなものです。一般的に、現在では、教師あり学習と教師なし学習の2つのタイプの機械学習アルゴリズムが使用されています。両者の違いは、予測を行ううえでどのようにデータを学習するかにあります。
教師あり機械学習 | 教師あり機械学習は、最も広く使用されているアルゴリズムです。このモデルでは、データ・サイエンティストがガイド役となり、どのような結論を出すのかをアルゴリズムに教えます。子どもが絵本で見て果物の区別を覚えるように、教師あり機械学習では、すでにラベル付けされ、出力がデフォルトのデータセットを用いてトレーニングを行います。 教師あり機械学習の例としては、線形回帰やロジスティック回帰、マルチクラス分類、サポート・ベクター・マシンなどのアルゴリズムがあります。 |
教師なし機械学習 | 教師なし機械学習では、より自律的なアプローチが使用されます。これは、人間が細かいガイドを継続的に与えるのではなく、コンピューターが複雑なプロセスやパターンを学習して、それらを識別できるようにするというアプローチです。教師なし機械学習では、ラベルや定義済出力のないデータを使用してトレーニングを行います。 先ほどの子供のたとえで言うと、教師なし機械学習は、子供が先生の助けを借りて名前を覚えるのではなく、色や模様を観察しながら果物を識別できるようになるのに似ています。つまり、画像の類似点を探し、それらをグループに分類して、各グループに独自の新しいラベルを割り当てるのです。教師なし機械学習アルゴリズムの例としては、K平均クラスタリング、主成分分析や独立成分分析、相関ルールなどがあります。 |
アプローチの選択 | ニーズに最適なアプローチはどれですか?通常、機械学習のアルゴリズムとして教師あり学習と教師なし学習のどちらを選ぶかは、データの構造と量に関連する要因や、そのアプローチを適用するユースケースによって決まります。機械学習はさまざまな業種で活用されており、さまざまなビジネス目標やユースケースに役立てられています。以下に示すのはその例です。
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機械学習の開始時に、開発者は統計、確率、および計算の知識に基づいて、時間の経過とともに学習するモデルを最も適切に作成します。開発者は、このような分野の鋭いスキルがあるため、他の多くの開発者が最新のMLアルゴリズムのトレーニングに使用するツールを問題なく習得できるはずです。開発者はアルゴリズムを教師ありと教師なしのいずれにするかを決定することもできます。開発者は、意思決定を行い、プロジェクトの早期にモデルを設定でき、その後、開発者の関与が増えることなくモデルを学習できます。
多くの場合、開発者とデータ・サイエンティストの違いは、あいまいです。場合によっては、開発者が機械学習モデルからデータを合成し、データ・サイエンティストがエンド・ユーザーのソリューションの開発に貢献することがあります。この2つの規範間のコラボレーションによって、MLプロジェクトの価値と有用性を高めることができます。
顧客生涯価値モデルは、eコマース・ビジネスにとって不可欠なものですが、その他のさまざまな業種にも適用可能です。このモデルでは、最も重要な顧客を特定し、理解し、維持するために、機械学習アルゴリズムが使用されます。このような価値モデルでは、膨大な顧客データを評価して、消費額の多い顧客や、ブランドの熱烈な支持者、またはこのような性質の組み合わせを特定します。
顧客生涯価値モデルは、個人の顧客が特定の期間にもたらす将来的なビジネス収益を予測するのに特に効果的です。このような情報を活用して、企業は収益性の高い顧客に対してマーケティング活動を重点的に行い、自社ブランドの情報により頻繁に触れてもらうことができます。また、顧客生涯価値モデルは、収益性の高い既存の顧客に類似した新規顧客を特定するのにも役立ちます。この結果、顧客獲得のための費用をこのような顧客に重点的につぎ込むことが実現します。
新規顧客の獲得には、満足度やロイヤルティの高い既存顧客を維持する場合より多くの時間とコストがかかります。顧客離れのモデリングは、自社との関わりを断つ可能性が高い顧客とその理由を特定するために役立ちます。
チャーン・モデルを効果的に使用すると、機械学習アルゴリズムを使って、それぞれの顧客のチャーン・リスク・スコアやチャーン要因に関する分析情報を取得し、重要度順にランク付けできます。このようなデータは、アルゴリズムに基づく顧客維持戦略を開発するための鍵となります。
顧客離れに関する詳細な分析情報を取得して、割引オファー、メール・キャンペーン、およびその他のターゲット別マーケティング・イニシアティブを最適化すると、収益性の高い顧客の維持や、一度離れた顧客の回復を促進できます。
近年では、消費者の選択肢がかつてないほど増え、消費者がさまざまなチャネルによって価格をすぐに比較できるようになりました。動的価格設定(需要価格設定)は、目まぐるしく変わるマーケティング動向に効果的に対応するために役立ちます。これにより企業は、ターゲット顧客の関心度や、購入時点での需要、マーケティング・キャンペーンへの参加履歴など、各種の要因に基づいて、品目の価格を柔軟に設定できます。
このようなビジネス上の俊敏性を確保するには、しっかりとした機械学習戦略を整えるだけでなく、商品やサービスに対する顧客の購買意欲が状況に応じてどのように変化するかを膨大なデータによって把握する必要があります。動的価格設定モデルは複雑なものになる場合もありますが、航空業界やライドシェア・サービス業界などの企業では、動的な価格最適化戦略を効果的に導入して、収益を最大化しているケースがあります。
マーケティングに成功するには、適切な製品を適切なタイミングで、適切な顧客に提供することが重要です。顧客をセグメント化する場合、少し前までは、マーケターが自分の直感で顧客を分類し、ターゲット別キャンペーンのグループに分けていく必要がありました。
現在、機械学習が一般化してきたことで、データ・サイエンティストがクラスタリングや分類のアルゴリズムを使用して、特定の性質に基づくペルソナに顧客をグループ分けできるようになりました。このようなペルソナでは、人口統計、閲覧行動、親和性など、複数のディメンションで顧客の特性をグループ化できます。このような特性を購買行動のパターンに結びつけることで、データに精通した企業は高度にパーソナライズされたマーケティング・キャンペーンを展開し、汎用的なキャンペーンより効果的に売上を促進できます。
ビジネスに利用できるデータが増え、アルゴリズムが洗練されていくほど、パーソナライズの機能は向上し、最適なカスタマー・セグメンテーションを高精度に特定できるようになります。
機械学習は、小売、金融サービス、eコマース以外にもさまざまなユースケースに活用できます。また、科学、医療、建設、エネルギー分野のアプリケーションにも計り知れない可能性をもたらします。たとえば、画像分類に機械学習アルゴリズムを使用すると、固定のカテゴリ・セットから、任意の入力画像にラベルを割り当てることができます。2Dのデザインに基づいて3Dの建築プランをモデリングしたり、ソーシャル・メディアに投稿された写真のタグ付けを強化したり、医療診断情報の提供に利用したりするなど、さまざまな用途が考えられます。
画像分類にでは、潜在的な合併症がある場合の画像で関連する特徴を最も効果的に特定できるため、ニューラル・ネットワークなどのディープ・ラーニング手法がよく使用されます。たとえば、視点、照明、大きさの違いや、画像に写っている余計なものなどを認識し、このような問題を軽減して、最も関連性の高い高品質の分析情報を提供できます。
レコメンデーション・エンジンは、クロスセルやアップセルに不可欠な機能であり、顧客エクスペリエンスの改善にも役立ちます。
Netflixは、レコメンデーション・エンジンを使ったお薦めコンテンツ機能によって年間10億米ドルの収益効果が出ていると評価しています。またAmazonも、同様のシステムによって年間売上が20〜35%増加しているとコメントしています。
レコメンデーション・エンジンでは、機械学習アルゴリズムを使用して膨大なデータを精査し、顧客が商品を購入する可能性や、コンテンツが顧客の好みに合っているかどうかを予測し、ユーザーへのお薦めをカスタマイズできます。この結果、高度なパーソナライズを行ってニーズに合ったエクスペリエンスを提供し、エンゲージメントを高めて、チャーンを減らすことができます。
機械学習はビジネスのさまざまなユースケースに活用できます。しかし、具体的にはどのように競争力を強化できるでしょうか。機械学習がもたらす効果の中でも、特に大きな利点を期待できるのが、意思決定を自動化して迅速化して、価値実現までの時間を短縮できるという効果です。そのためにはまず、ビジネスの可視性を改善し、コラボレーションを強化する必要があります。
Oracle Analyticsの製品戦略担当バイスプレジデントであるRich Claytonは次のように述べています。「これまで、人々が連携して作業するのには困難がつきものでした。Oracle Analytics Cloudに機械学習を追加すると、ユーザーは業務を組織化し、データ・モデルを効果的に構築し、トレーニングし、導入できるようになります。これは、プロセスを迅速化し、さまざまなビジネス部門のユーザーが連携しながら、より高品質なモデルを導入できるようにするためのコラボレーション・ツールです」。
たとえば、企業の財務部門では多くの場合、差異分析プロセスを繰り返し行って、実際値と予測値を比較する作業が日常的に発生します。これはまだあまり知られていない用途ですが、機械学習によって利点を多大に得ることができる分野です。
「機械学習を組み込めば、財務業務をより迅速でスマートに実行し、機械がやり残した部分を選択的に作業できます」とClaytonは述べています。
機械学習がもたらすもう1つのすばらしい機能として、予測機能があります。かつて、ビジネス意思決定の多くは、過去の結果に基づいて行われていました。現在、機械学習によって高度な分析を実行し、今後起こることを予測できるようになりました。これにより企業は、過去のデータに頼るのではなく、将来を見据えた先見的な意思決定を行うことができます。
たとえば、製造業者、エネルギー会社、その他の業界では予知保全を使用することで主導権を握り、業務の信頼性と最適性を維持できます。数百本単位のドリルを稼働している油田などで機械学習モデルを使用すると、近い将来に故障するリスクがある設備を特定して、メンテナンス・チームに事前に通知することもできます。このアプローチは、生産性を最大化できるだけでなく、資産のパフォーマンス、稼働時間、寿命を改善することにもつながります。また、作業員のリスクを最小化し、債務を減らし、法規制へのコンプライアンスを改善することもできます。
予知保全は、在庫管理にも利点をもたらします。予知保全によって計画外の設備停止を回避すると、スペア・パーツや修理の必要性をより正確に予測し、資本コストと運用コストを大幅に削減できます。
機械学習は、現在利用できる膨大なデータからビジネス価値を引き出すうえで、計り知れない可能性をもたらします。しかし、ワークフローが効率的でないと、機械学習の可能性を最大限に実現することは困難になります。
エンタープライズ・レベルで成功するには、機械学習を包括的なプラットフォームの一部に組み込み、組織の運営を簡素化して、モデルをスケーラブルに導入できるようにする必要があります。適切なソリューションを使用すると、すべてのデータ・サイエンス業務を連携的なプラットフォーム内に集中管理し、オープン・ソース・ツール、フレームワーク、およびインフラストラクチャの使用と管理を迅速化できるようになります。