Lynne Sampson |コンテンツ・ストラテジスト| 2024年4月18日
財務モデリングは、ビジネスのパフォーマンスを数値で提供し、企業が将来どのようになりそうかを予測できるよう支援します。財務モデリングは広義な用語であり、さまざまなタイプのモデルをカバーすることがあります。例えば、社内の財務チームがビジネスの健全性を評価し、予算および投資の意思決定を行う際や、社外の株式アナリストが企業株式の売買や企業買収あるいは融資の意思決定を行う際など、財務モデリングはさまざまな役割で活用されています。通常、財務モデルは、企業の現在の財務状況のスナップショットと将来の予測を提供します。
財務モデリングとは、企業の将来のパフォーマンスを予測する目的で、企業の過去の財務実績を要約して作成するプロセスです。これらのモデルは、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書などの主要な会計諸表と、売上、経費、設備投資などの将来の見通しに関する前提条件とを組み合わせたものを利用しています。財務モデルは、履歴データと予測される傾向を組み合わせて、今後数四半期の売上げや企業の評価など、将来のパフォーマンスを推定します。
財務モデリングは、企業のリーダーが投資、予予算編成、プロジェクトについて十分な情報に基づいた意思決定を行なえるよう支援します。正確なモデルは、リーダーが意思決定の財務的影響を判断し、データドリブンなアプローチで将来の計画を立てられるように支援することで、企業の収益性と高い成長の向上を支えることができます。また、外部のアナリストがビジネスの上の価値を理解し、買収、投資、融資の意思決定を行えるよう支援します。
主なポイント
財務モデリングは通常、財務計画および分析(FP&A)を専門とする従業員によって行われます。企業内で財務モデリングを行うアナリストは通常、企業の財務部門に所属し、会計と財務の原則をしっかりと理解しています。FP&Aチームは多くの場合、財務3表手法から着手し、企業の現在の財務諸表(直近の損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書)、およびそれを裏付ける付属明細書を検証します。社外で財務モデルを担当するアナリストは、投資銀行、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタルなど、企業の価値や将来性を重視する企業に勤務していることがあります。
アナリストは、財務実績データを基に、将来のトレンドやビジネス推進要因に関する前提条件を検討します。推進要因とは、将来の収益や費用に大きな影響を与える可能性を持つあらゆる要因のことで、ビジネスの内外からもたらされる場合があります。内部推進要因の例としては、予測される売上、製造容量、在庫、注文残などが考えられ、これらはいずれも次の四半期に企業が販売できる量に影響します。外部推進要因の例としては、金利や失業率などの経済要因や、売上を減速させたり加速させたりする可能性のある新しい政府の規制などが考えられますこれらのインプットを用いて、アナリストは短期(来期、今期)または長期(通常3~5年)の企業の財務状況を予測します。短期予測は長期予測よりも正確である傾向がありますが、これは推進要因と前提条件が短期予測よりも予測しやすいためです。
財務モデリングの目標は、企業の財務見通しや価値、プロジェクトや投資の価値について、十分な情報に基づいた全体像を描くことです。企業エグゼクティブは、投資先、支出先、買収先、売却先、従業員の採用や解雇などの意思決定を支援するためにこれらのモデルを使用します。財務リーダーは、企業の将来の株価や市場評価を予測するためにモデルを使用します。FP&Aチームは、さまざまなシナリオをテストし、新規プロジェクトの価値を推定し、予算を決定し、人員を配分するためにモデルを使用します。
財務モデリングが重要なのは、企業リーダーがより適切で、よりデータに基づく意思決定を行うことを支援するためです。財務モデルを作成することで、企業はあり得る結果を予測し、起こり得るリスクを特定し、戦略を調整することができます。シナリオ・プランニングは、アナリストが前提条件を検討し、工場や病院、小売店の増設など大規模な設備投資などの意思決定がもたらす可能性のあるリスクとリターンを評価するため、財務モデルに大きく依存します。モデリングを使用して、債券、株式、現金のいずれを用いて大規模な投資を行うかなどの資金調達に関する意思決定を行います。財務モデリングは、長期的な成長をもたらす健全な財務意思決定を行い、その成長がもたらす可能性のある価値を知り、その成長を達成するために企業が取っているリスクを理解するために不可欠です。
財務モデルは、さまざまな用途をカバーする多くの種類のアウトプットを提供することができます。特にシナリオ・モデリングは、アナリストが「what-if」評価を実行することを支援するために広く用いられています。このような評価では、モデルの主要な推進要因と前提条件に注目し、さまざまな値を適用して、最良、最悪そして最も可能性の高い結果を決定します。これらのモデルは、リーダーが次のような企業戦略に関する重要な意思決定を行えるよう支援します。
大企業は、強力な財務モデリングなしでは効果的な運用ができません。ビジネス・リーダーが得られる主なメリットは次のとおりです。
自社アナリストがモデルを作成する場合でも、正確で完全なデータから始めることが財務モデリングにおける最大の困難の1つとなります。社内のアナリストにとって、財務データは通常、財務ソフトウェアまたはエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムにされています。多くの場合、これらのシステムは、売上を管理するシステム(売上予測情報が保存されている)やプロジェクト(多くのコストが記録されている)など、他のソフトウェア・システムとは連携されていません。企業は、このようなデータをすべてスプレッドシートにエクスポートし、その数値を単一のシートにまとめてモデリングすることがあります。このロールアップ・アプローチは、次のようないくつかの問題が生じます。
財務モデルに関するその他の困難には、次のようなものがあります。
財務モデルは、一定時点における企業のスナップショットを提供します。これらの財務モデルは、企業全体、事業部門、あるいは工場拡張やマーケティング・キャンペーンなどのプロジェクトの価値評価にも使用できます。財務モデリングの例を次のとおりご紹介します。
財務3計諸表モデルは、企業の損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書を組み合わせたものです。このモデルには、運転資本、負債、減価償却などの付属明細書も含まれることがあります。通常、財務3表モデルは、より複雑な財務モデルの基礎となります。これらのインプットと推進要因、リスク、前提条件を組み合わせることで、FP&Aチームは次のことをモデリングすることができます。
最も一般的な評価方法のひとつに、手元資金を投資して将来の収益を向上させることができるため、企業の手元資金が将来のキャッシュよりも価値があると仮定するディスカウント・キャッシュフロー(DCF)モデルがあります。DCFモデルは、ビジネスまたはプロジェクトが生成すると推定されるすべての将来の資金に注目し、それらのフローを企業の資本コストを使用して現在の価値に割り戻します。そのため、キャッシュ・フローは、早い時期のものが遅い時期よりも高く評価されます。DCFは、企業の株価が割高か割安かを判断できるよう支援します。また、あるプロジェクトが投資を正当化するのに十分なリターンを生み出すか、あるいはあるプロジェクトが他のプロジェクトより価値があるかについて、それぞれがいつ、いくらの資金を生み出すかに基づいて判断するためにも使われます。
このモデルは、企業がレバレッジド・バイアウト(LBO)のターゲットとして適切であるかを評価します。LBOでは、債務を使用して企業を買収します。LBOモデルは、収益成長、キャッシュ・フロー、経費、債務支払いなど、将来のパフォーマンスを詳細に推定し、それを用いてビジネスに価値を付けます。LBOモデルは、LOB買収の総合的な価値の評価に加え、流動性とキャッシュ・フローのタイミングを評価し、債務支払いやその他の現金債務を履行する企業の能力を見極める必要があります。
感度モデルは、モデルの入力変数の変化により企業業績がどの程度影響を受けるかを調べます。このようなモデルは、企業の成功の最大の推進要因と、予測が外れた場合の最大のリスクに焦点を当てます。最も簡単な例は、収益成長です。感度モデルでは、総売上高や売上高成長率が低下した場合に企業に何が起こるかを確認することができます。企業が給与を支払えなかったり、負債を返済できないといったリスクは、どの程度まで収益が低下した場合に発生するのでしょうか。
このアプローチは、企業を評価するために、類似した業界や地域の企業の財務比率と評価を確認します。つまり、買収を検討している住宅建設ビジネスの価値を評価するために、同じ国や地域の上場住宅建設企業の財務状況を調べ、株価収益率(PER)、企業価値と収益、利益率、その他の価値や利益の指標などの比率を比較します。類似企業比較モデルは、評価対象の企業と類似した企業を市場がどのように評価しているかを調べます。
財務モデル構築の近道は、収益予測、収益性、シナリオ・モデリング、資本費用など、複数のモデルや数式が組み込まれたソフトウェアを使用することです。また、計画ソフトウェアでは、スプレッドシートのような見た目と動作をしながらも、リアルタイムで他のシステムからデータを取得するフリーフォーム環境を提供している場合もあり、モデルは常に最新の数字で機能します。
スプレッドシートで最初から財務モデルを構築する場合、そのステップはモデルのタイプにより異なります。しかし通常は、以下のステップを含める必要があります。
より具体的な例として、ディスカウント・キャッシュ・フロー・モデルを実行するステップを次のとおりご紹介します。
財務モデリングのベストプラクティスは、業界ごと、あるいは企業ごとに異なる場合があります。通常、モデルを構築する際に考慮するベストプラクティスは次のとおりです。
財務モデルを作成および維持する最も簡単な方法は、その目的のために設計されたソフトウェアを使用することです。Oracle Cloud Enterprise Performance Management(EPM)などのソフトウェアには、何百ものデフォルトの財務モデルや計算式に加え、より複雑なモデリングのための無料形式のスプレッドシートのような環境が含まれています。Oracle Cloud EPMは、Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning(ERP)からリアルタイムで実績を引き出すことができるため、常に最新の数値を使用して作業できます。モデルを選択し、推進要因と前提条件を入力して、すぐに結果を入手します。このアプリケーションは、Oracle Cloud ERPのプロジェクト計画、Oracle Cloud Sales Planning、Oracle Fusion Cloud Supply Chain Planning、Oracle Fusion Cloud Human Capital Management(HCM)の人材計画機能など、オラクルの他の計画ソフトウェアと簡単に接続します。これらの接続により、ビジネス全体にわたるすべての計画を可視化し、ある部門の変更が社内の他の部門の計画に影響を与える仕組みを示すことが支援されます。
財務モデリングの4大要素について教えてください。
財務モデリングの4大要素は、前提条件、財務諸表分析、評価、感度分析です。前提条件には、将来のビジネス・パフォーマンスに関する経験則に基づく推測が含まれます。財務諸表には、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書があります。評価では、ビジネスや投資の価値を判断します。感度分析では、シナリオをテストして、ビジネスの財務にどの程度の影響を及ぼすかを確認します。
6つの財務モデルのタイプを教えてください。
最も一般的に使用される財務モデルの6つは、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、類似企業比較分析(CCA)、レバレッジド・バイアウト(LBO)、サム・オブ・ザ・パーツ、オプション価格、モンテカルロ・シミュレーションです。
財務モデリングを実行する方法を教えてください。
このプロセスでは、現在の財務諸表からデータを収集および分析し、企業の将来の業績に影響を与える可能性のある要因(「推進要因」とも呼ばれる)を特定し、前提条件とシナリオを作成し、計算を実行し、モデルの精度をテストします。
ご購入をお考えですか?
営業担当者に問い合わせる営業担当者とチャットアカウント/サブスクリプション、プロモーションの問題
チャットを開始テクニカルサポート、またはその他のサポートリクエスト
サポート・オプションを表示