Margaret Lindquist | 医療コンテンツ・ストラテジスト | 2023年1月10日
看護師は、最も落ち着いた時期であっても非常に厳しい職業ですが、COVID-19のパンデミックは、看護職の課題を新たな次元に引き上げ、離職率の上昇や重大な人材不足を招きました。
離職率が高い主な理由は、パンデミックによる燃え尽き症候群、労働力の高齢化、業界全体の人手不足下で優秀な人財を獲得するための熾烈な競争です。看護学校自体が人手不足であるため、問題を軽減するために十分な受験生を輩出することは不可能でしょう。
看護師の離職率が急増すると、医療機関と患者は同様にさまざまな形で損害を被ります。患者の待ち時間が長くなります。看護師が個々の患者と接することのできる時間が減り、結果的に治療のレベルが低下します。そして、残った看護師には精神的・肉体的負担がかかり、その多くが他の医療機関に転職したり、業界を去ったり、早期退職したりすることになります。この競争の厳しい労働市場において、スタッフ看護師の定着率を向上させるために医療提供者は手段を講じる必要があります。
主なポイント
過労、低賃金、低評価のため、個々の医療施設ならびに国の公共政策レベルで問題視されるほどの勢いで、看護師が職を離れ始めています。2022 NSI National Health Care Retention & RN Staffing Reportによると、米国におけるスタッフナースの年間離職率は、2021年には前年比8.4ポイント増の平均27.1%に上昇しました。パンデミック時には、全米の州知事が人員不足の医療提供者を支援するため、州兵を招集する必要がありました。離職問題を解決するためには、まず看護師が辞職する理由を理解することが重要です。
不自由で厳しいスケジュール
激務の現場で働く看護師は、たとえ1、2人の同僚が病欠や他の理由で出勤できないとしても、融通の利かない勤務体系のために、シフトに穴が開く可能性があることを理解しています。そのため、出勤した人員が疲弊し、患者の健康だけでなく、看護師の精神的な健康も危険にさらされることになりかねません。
パンデミック関連ストレス
米国保健社会福祉省によると、COVID-19の発症以前から、看護師の半数以上が燃え尽き症候群の症状を訴えています。最近の調査では、約3分の1の看護師が今後3年以内に退職を考えているとのことです。
パンデミックは離職率増加に拍車をかけた理由の一つです。米国国勢調査局と米国労働統計局が共同で行っているCurrent Population Surveyのデータによると、2021年3月時点で2019年3月から140%増となる14,500人の看護師が最近退職していることがわかりました。2021年に6,500人以上の救命救急看護師を対象に行われた調査では、92%がパンデミックによって「自分の病院の看護師が枯渇し、その結果、自分のキャリアが意図したよりも短くなる」と回答しました。66%が、COVID-19の経験から、職業から完全に離れることを検討していると答えています。
相対的に低めな給与
Harris Public Policy groupとAP通信の最近の世論調査によると、アメリカ人は看護師の給料が不十分(そして医師の給料はおおむね妥当)だと考えています。労働統計局の最新データによると、米国における正看護師の年収の中央値は77,600ドルとなっています。助産師、診療看護師(NP)、ナース・アネステティストを含む一部の看護師は、大幅に上回る収入を得ることがあります。
しかし、正看護師の平均給与は、不動産業者、理学療法士、建設管理者よりも低いという事実を考慮すべきです。2022年、医療人材派遣会社ShiftMedが実施した調査では、今後2年以内に業界を去る可能性があると答えた看護師が上げた問題点は、スタッフ不足(64%)と生活費の上昇についていけないこと(43%)でした。
時代遅れのテクノロジーとプロセス
レガシーな電子カルテ(EHR)ソフトウェアは、看護師やその他の臨床医によるケアの提供を容易にするためではなく、収益活動を促進するために設計されています。EHRで定期的に行われる患者の文書作成に、看護師は200回ものクリックをしています。全体的に、非効率的でマニュアル化された管理業務は時間がかかりすぎ、看護師の不満を招いています。Hospital IQが2021年11月に実施した調査では、看護師の53%は、医療機関が患者のニーズを可視化するシンプルなプロセスを導入すれば、職場環境が改善され、看護師の燃え尽きレベルが低下する可能性があるという結果でした。一方、45%の回答者は、部門間のコミュニケーションや協調性を高めたいと回答しています。
悪化する患者対看護師比率
患者がどれだけのケアを必要としているかによって、患者対看護師比率は変化します。例えば、集中治療室では患者と看護師の割合が2:1が理想とされていますが、手術準備病棟や回復病棟では6:1くらいになるようです。看護師が離職や退職をすると、比率が悪化します。また、仮に契約社員を配置して欠員を補うことができたとしても、契約社員は医療機関のプロセスや人、さらには建物の位置関係にも精通していないため、より経験豊富な看護師には依然として負荷がかかることになります。
米国国立衛生研究所(NIH)の報告では、看護師の登録患者数が理想的な数より増えるごとに、死亡リスクが7%増加するとされているため、比率を間違えると、患者にも大きな影響を与える可能性があります。看護師派遣会社ConnectRNが2022年に行った調査によると、離職を考えている看護師の61%が、一番の理由として看護師不足の影響を挙げています。
新人看護師へのサポート不足
予想外に多い仕事量やチーム・メンバーとのコミュニケーション不足から、1年目の新人看護師の離職率は30%にものぼります。当然のことながら、NIHによれば、勤務1年目の看護師の仕事満足度も10点満点中平均5.5点と低い数値となっています。
医療機関は、すべての臨床職における未曾有の離職率に対処しているものの、特に看護師の離職率は壊滅的な割合に達しています。看護師の人材紹介会社であるNSIが行った調査によると、2021年のスタッフ正看護師の平均離職率は27.1%でした。米国の平均的な病院では、看護師の離職に関連するコストにより、年間520万ドルから900万ドルの損失が発生しています。
看護師の離職率が高いことによるコストには、数値化しやすいものもあれば、測定はしにくいが重要度は変わらないものもあります。
離職コスト
看護師の離職コストには、退職金、休暇の支払い、失業保険の請求、社内システムや名簿から従業員を削除するコストなどが含まれます。
採用および研修コスト
Robert Wood Johnson Foundationの調査によると、正看護師の交代には、米国の医療機関で平均約37,000ドルのコストがかかるとされています。これには、求人広告の掲載、面接、新入社員が医療業界の厳しい研修や資格取得の要件を満たすためのハード・コストが含まれます。新入社員は組織に新しいアイデアやエネルギーもたらすことができますが、その反面、学習期間が必要で、全体の生産性を低下させる可能性があります。
トラベル・ナースのコスト
労働統計局によると、通常、組織を去った看護師の補充として契約されるトラベル・ナースには、米国のスタッフ看護師の平均給与が77,600ドルであるのに対し、年間127,694ドルの平均給与が支払われます。そして、その契約料には、交通費の払い戻しや食事や住居のための手当などの追加支払いは含まれていません。また、生産性の低下や、施設の方針、設備、スタッフに不慣れなため契約者が正社員に与える負担増の可能性など、トラベル・ナースの利用による数値化しにくいコストも考慮されていません。
標準的な患者のケア
看護師の離職率が高いと、スタッフ不足になり、対患者比率が低下し、過剰労働の看護師が患者の回復期間を長引かせるかもしれないサインを見逃す可能性があります。患者の満足度にも微妙な影響があります。NIHの研究によると、患者は最高の治療を受けていると思わない場合には、医療提供者への信頼を失い、医療提供者の評判に傷をつけることが明らかになりました。
公衆衛生への悪影響
全米で看護師不足がもたらす影響の1つは、特に地方に住む一部の人々が、医療サービスを身近に受けられなくなることです。現在、約8300万人のアメリカ人が、医療従事者不足地域(HPSA)と呼ばれる地域に住んでいます。
看護師の離職多発によりもたらされた包括的なメリットがあるとすれば、結果的に、この問題がかつてないほど注目され、前向きな変化が起こる可能性が高まったことでしょう。
看護師の離職によるメリットはその他に3点あります。離職率の問題そのものを消し去るわけではありませんが、先見の明のある医療機関であれば、業務改善に活用することができます。
離職する看護師は燃え尽きた状態であることが多く、パフォーマンスが低下し、周囲の士気を下げている可能性があります。後任看護師は、組織に新しいエネルギーと新鮮な視点をもたらすことができます。
従業員の雇用終了にかかるコストは、給与、在職期間、契約内容などによって異なります。休暇、退職金、失業保険などといったコストは、従業員が自主的に退職する場合には、その一部しか支払う必要がありません。
もし看護師が同じ理由で退職したり、同じような転職をしているのであれば、賢明な雇用主はそこから学ぶことができます。マネージャーは、オンボーディング・プロセス、チームの文化、または給与体系に問題を検出する可能性があります。離職率の高さの背景にあるデータを掘り下げることで、組織がプロセス、ツール、ポリシーに加えるべき変化を明らかにすることができます。
看護師の離職を減らすには、医療機関が文化、プロセス、慣習、ツールなどさまざまな要素に取り組み、看護師が評価されていると感じ、健全なワークライフ・バランスを実現できるようにすることが求められます。まずは、マネージャーが看護師の声に耳を傾け、何を変えるべきかを理解することが第一歩です。
たとえ採用人数が少なくても、雇用主は必要なスキルや、自社の制度や文化に合う社員、ひいては長期的に勤務する可能性の高い社員について、明確な認識を持ってプロセスに臨まなければなりません。現在のスタッフから意見を聞き、採用ツールやオンボーディング・ツールが関係者全員にとってより簡単なプロセスであることを確認します。例えば、クラウドベースの人財管理システム(HCM)に組み込まれたAI機能により、雇用主は求人応募者から提出されたデータを分析し、求人要件やその他パラメーターと照らし合わせることができます。
特にキャリアをスタートさせたばかりの看護師は、未知の世界に放り込まれたような感覚に陥ることが少なくありません。経験の程度にかかわらず、新入社員には、所属する組織に特化したトレーニングや、政府規制によって義務付けられたトレーニング(感染症対策や疼痛管理に関するトレーニングなど)が必要です。明確な目標を掲げて包括的なオンボーディングプランを策定し、新入社員がトレーニングを完了するのに必要な時間を与える組織は、あらゆるレベルのスタッフの離職率の低下を促進することができるでしょう。
アメリカ看護協会は、病院が看護師をユニットごとに柔軟にプールし、マネージャーが常に同じ人に声をかけることがないように、より多くの人員を確保することを推奨しています。また、管理職が個々の看護師と直接連携し、時間外や残業のリクエストに対応できるようスケジュールを設定することも推奨しています。最新のHCMスケジューリング・システムは、従業員が個々の看護師の能力や経験に基づいて利用可能なシフトをフィルタリングし、どのシフトが可能かを確認することができます。稼働可能なスタッフをフル活用する病院は、高額な契約看護師への依存を縮小することができます。
新しいモバイル・アプリケーションでは、マネージャーが看護師と即座に、より定期的にコミュニケーションをとり、パルス調査を通じて迅速なフィードバックを得ることができます。また、マネージャーはテクノロジーを使用して、定期的なチェックインや自動リマインダーを含むパフォーマンス管理プランを実行し、継続的な1対1のコーチングを実現することができます。
看護師が関わるすべてのシステムは、従業員エクスペリエンスに足し引きされる形で影響します。これには、採用、オンボーディング、トレーニング、福利厚生などの 主要な人事プロセスをサポートするアプリケーションや、すべての医療機関の中枢であるEHRシステムが含まれます。これらのインターフェースやアクセスポイントが接続されていない場合、看護師はデータの入力や検索に多くの時間を費やし、患者をケアする時間を短縮しなければなりません。看護師が不必要に事務作業に追われることがないよう、適切なテクノロジーでサポートすることが、人材確保の鍵となります。というのも、看護師がこの職業を選ぶ理由のトップは、人々の生活に変化をもたらすことだからです。
看護師にコントロールと柔軟性を与えることは、仕事の満足度、ひいては組織への滞在意欲に好影響を与えます。ここで、テクノロジーが重要な役割を果たすことがあります。看護師は、シフトの登録、スケジュールの調整、福利厚生の確認、トレーニングの登録と追跡、キャリアの計画と開発、組織へのフィードバック、マネージャーや同僚とのつながりを可能にするツールを備えた、使いやすく、常に利用可能なHCMシステムを必要としています。
Oracle Fusion Cloud HCMは、新しいOracle ME employee experience platformを搭載し、看護師とそのマネージャーの両方にこれらのツールを提供して、医療機関によるスタッフへのサポートとスタッフのエンゲージメントと滞在意欲の維持に貢献します。
Philips Future Health Indexの調査によると、世界がCOVID-19のパンデミックから脱却し始める中、ヘルスケアリーダーは異なる優先事項に焦点を当てています。その中でも最も重要なのは、スタッフの定着と満足度、コスト削減、そして患者ケアの改善です看護師やその他の重要な従業員の離職率を下げるために、医療機関は給与を上げることでモチベーションを高めることができます。
2022年の平均的な従業員の離職率とは
ガートナーは、当面の間、業界全体で従業員の年間離職率が20%になると予測しています。病院の平均離職率は約26%です。
医療の離職コストについて
医療コンサルタント会社Kaufman Hallが発表したデータによると、米国における臨床医の不足は、2021年に病院の人件費を8%、つまり240億ドル増加させました。
2023年以降、看護師には大きな需要はあるのでしょうか。
労働統計局(BLS)によると、医療を必要とする高齢化、定年を迎える看護師の補充、肥満や認知症などの慢性疾患の増加などにより、看護師は今後10年間で米国で6番目に急成長する職業となる見通しです。BLSは、現在から2031年までの間に、毎年約203,000件の看護職が新たに募集されると予測しています。