Margaret Lindquist | 医療コンテンツ・ストラテジスト | 2023年2月17日
世界保健機関(WHO)によると、世界的な医療従事者の不足により、2030年までに1800万人以上の求人が発生すると言われています。最も深刻な影響を受けるのは低・中所得国ですが、すべての国が、患者のニーズを満たすのに十分な医療従事者を維持するという課題に直面することになります。医療機関で働く最高人事責任者(CHRO)は、この課題を克服する方法を見つけるという重責を担うことになり、その成功は、従業員を採用および維持し、高いレベルのパフォーマンスが発揮できるように支援する能力により評価されることになります。有望な医師、看護師、補助者、その他の従業員を育成し、変化する従業員の課題に対応できるようにマネージャーに継続的なトレーニングを提供することは、最新の医療機関のCHROが担う責任の一部にすぎません。
CHROは、組織を成功に導き、採用、オンボーディング、トレーニング、従業員のエンゲージメントと維持、パフォーマンス管理などの主要な人事業務に関する情報を提供する人材戦略を策定する責任を負っています。これは、組織で最も上級の人事担当者を他の経営幹部と同じレベルに置き、その担当者が組織全体の戦略や目標に影響を与え、形成する機会を与えるという、比較的新しい役職です。CHROはIT部門と連携し、給与やボーナスをパフォーマンスと連動させる給与計算システムといった、労働力を組織の目的に合致させる企業システムに対しても責任を担っています。CHROはまた、従業員の健康計画やウェルネス・プログラムも監督します。
主なポイント
35年前、医療機関の人事責任者は、記録管理、雇用、解雇、医療制度や退職金制度の管理など、従業員に関する基本的な業務に専念する傾向にありました。今日の医療機関のCHROは、採用と従業員の維持という大きな課題に直面しており、COVID-19の流行を受けて、燃え尽き症候群、メンタルヘルス、身体の安全といった健康問題も重視する必要があります。一方、医療機関、支払者、技術系新興企業が密接に連携し始めると、業界のCHROは、新たな種類の人材や専門知識の採用と開発を担当することになるでしょう。他の業界のCHROと同様に、医療機関のCHROもデータ分析を用いて、採用から管理、報酬、インセンティブに至るあらゆる面で情報を提供し、その結果を上層部に伝える必要があります。
CHROには、ビジネス上の鋭い直感と高いコミュニケーション能力が必要です。しかし、医療機関のCHROは、多数の業界特有の責任を果たすために、さらなる専門知識と経験を必要とします。例えば、一部の従業員について複雑な労働組合契約を理解することが必要な場合があります。また、企業の弁護士と緊密に連携し、組織が無数の政府規制や法律を遵守していることを確認する能力も必須です。そして、電子カルテが従業員やハッカーに悪用されないように、IT部門と連携する必要がある場合もあります。ここでは、成功するヘルスケア業界のCHROが磨くべきスキルをいくつか紹介します。
医療機関のCHROは、給与や福利厚生、従業員調査、休日ボーナスにとどまらない用語を身に着ける必要があります。最高医療責任者から麻酔科医、看護師まで、あらゆる人と効果的にコミュニケーションをとるために、主要な問題や業界用語を把握することが求められます。複雑なヘルスケア関連の法律や規制を理解し、従業員が最新の状態にあり、合法的に勤務できるよう、証明ルールを常に把握しておく必要があります。また、患者層におけるニーズの変化と、そのニーズが従業員に与える影響についても理解する必要があります。例えば、アルツハイマー病の患者は、小児科の患者とはまったく異なる課題をもたらします。2023年のCHROの最重要課題は、優秀な医療従事者の獲得や将来のリーダーの育成など、依然としてあくまで人事の領域ですが、CHROの役割は、組織設計や変更管理などの領域にも広がっています。
CHROは、業界の変化を見極め、組織がどのようにそれに適応すべきかを判断する能力が必要です。これには、パーソナル・コンピューティング・デバイスが普及し、レガシー・ソフトウェア・システムを操作する忍耐力が欠如した技術的知識の豊富な労働者が増加するなどの世代交代が含まれることが考えられます。あるいは、医療のコストと質の両方に支払いを連動させるバリュー・ベース・ケアへのシフトも考えられます。さらには、遠隔健康相談の導入を加速させ、トラベル・ナース・サービスの利用を増加させたCOVID-19パンデミックのような、予期せぬ出来事によってもたらされた変化もあります。
労働力文化とは、組織の職場環境を規定する態度、認識、信念、伝統を組み合わせたものです。CHROは、活気ある職場文化を育み、維持し、その文化が人材の離職を招くようであれば、変化を促す責任を負っています。CHROは、組織の文化を、明確に定義された企業戦略やブランディングと整合させる必要があります。特に医療機関では、企業文化は従業員満足度や顧客ロイヤルティだけでなく、患者の転帰にも影響します。
人材評価は、採用、パフォーマンス管理、キャリア開発、後継計画の重要な要素です。特に、人材が非常に専門的であることが多く、その質が患者の生命を左右する医療分野では重要です。適切な人材の発掘には、多くの場合、現在のスタッフの育成と新たな役割への再配置を必要とします。医療機関では、他の業種とは異なる目標を掲げていることが多く、例えば、人事担当者は廃棄物の削減や騒音レベルの低減を課題としている場合があります。こうした目標に対するスタッフのコミットメントを評価することは、医療業界の独特な特徴の一つです。
適応力のある医療機関のCHROは、目前の危機から一歩引いて、組織の長期的な目標を広い視野でとらえることができます。適応力のあるCHROは、できる限り、ニーズやトレンド、選択肢に対応するのではなく、それを予測し、優先順位を組織全体に伝えて合意を形成します。適応力のあるCHROは、意思決定プロセスを透明化し、計画に変化をもたらす可能性のある課題やフィードバックに対してオープンな姿勢です。例えば、適応力のあるCHROは病院システムが正看護師を増員しようとしている場合、不足が最も深刻な分野のデータを収集し、スタッフ看護師の助言を求め、意思決定プロセスを拡大し、第三者の専門家を加えるでしょう。
パンデミックによって生じたストレスもあり、業界ではメンタルヘルス問題が危機的なレベルにあります。2021年のKaiser Family Foundation/Washington Postの調査に回答した最前線で働く医療従事者の3分の1が、何らかのメンタルヘルスのケアを必要としたことがあると回答しています。医療機関のCHROにとって最優先事項は、感情的知性を駆使して共感的で支援的な文化を醸成し、助けを求めることに対する偏見を払拭することです。柔軟なスケジューリング、育児支援、在宅勤務など、一見メンタルヘルスと関係なさそうなプログラムでも、従業員の幸福度を高めることがあります。
人は仕事を辞めるのではなく、ひどいマネージャーから離れるのだ、という考え方は真実です。賢明な医療機関のCHROは、正式なトレーニング・プログラムと継続的なフィードバックによる、あらゆるレベルのリーダーや管理職の育成を優先しています。医療機関のリーダーには、他のリーダーに必要なあらゆる資質が求められるだけでなく、患者への深い共感と、ケア・チームに関わるすべての人の役割に対する明確な理解も必要です。理想的なリーダーやマネージャーとは、従業員を鼓舞し、関わりを持ち、やる気を起こさせ、組織の価値観を体現する人物です。
最高のCHROは、役員の戦略的目標と他の従業員のニーズとのギャップを埋め、豊富なビジネス・スキルとピープル・スキル、そして共感的なリーダーシップを兼ね備えています。ここでは、優れた医療業界のCHROが持つ7つの機能を紹介します。
医療機関のCHROは他の役員たちと協力し、人材を惹きつけ、エンゲージメントを維持し、イノベーションを促進して、最高の患者ケアを提供するための職場文化の構築と維持を促進します。医療の世界では、カルチャーが意味するのは、単に「働きやすい職場」だけではありません。National Health Serviceの調査によると、医療機関の組織文化が機能不全に陥った結果、患者の死亡率が増加したことが明らかになっています。ポジティブな職場文化を促進するために、医療機関のCHROは、従業員が新しい環境や同僚に馴染むような、オリエンテーション・プログラムや継続的なメンターシップ・プログラムを開発しています。また、定期的なアンケートなどを通じて、従業員が経営陣にフィードバックする機会も設けています。
CHROは、役員の中で独特の役割を果たしています。最も感情的知性の高いメンバーであると考えられることが多く、一般の従業員の懸念から切り離されかねない他の役員との議論において、「従業員の声」を提供することがあります。CHROは、より柔軟なスケジュール、メンタルヘルス・サポートの充実、リモート・ワークのオプションなど、働き方改革に関する従業員の要望を役員に伝え、検討材料にすることが求められます。CHROは、役員職の後継計画にも関与しています。
さらに、CHROは、物理的なセキュリティや環境安全衛生から不動産や施設に至るまで、あらゆることについて経営幹部に助言を行います。他の役員も、CHROが果たすべき戦略的役割を認識し始めています。2023年のAccentureのレポートでは、調査対象となったCEOの87%が、CHROは組織の長期的な利益成長を確保する役割を果たすべきだと回答していますが、CHROがそうできるような条件を整えたと答えたのは45%に過ぎませんでした。
従業員への価値提案とは、従業員を惹き付け、維持するために組織が提供するあらゆるものを指します。基本は魅力的な給与と福利厚生ですが、先進的な医療機関では、従業員の健康増進プログラムの提供、ワークライフ・バランスの改善、柔軟なスケジューリングの提供、より透明性の高い管理プロセスの構築など、他の要素も重視しています。そして、こうした取り組みが、現在の従業員や将来の従業員に周知されるように徹底します。
従業員エンゲージメントの文化を創造することは、医療機関のCHROが離職率を減らし、従業員満足度を向上させる方法の一つです。エンゲージメントは、社員の声に耳を傾けることから始まります。その方法は、シニアリーダーやマネージャーが職場を回り、スタッフや患者と話をする「ラウンド」、勤務体系や患者・家族との関係、新たな指令やその他の問題について従業員の意見を求めるアンケートの作成などと多岐にわたります。CHROは、煩わしく繰り返しフィードバックを要請することと、従業員がその影響を軽視しかねないほど低い頻度で調査を実施することの間で、バランスを取る必要があります。
医療機関のCHROがパフォーマンスの向上を推進するためには、組織にとって好調なパフォーマンスが何を意味するのかを理解する必要があります。職種別の生産性向上でしょうか。手術件数の増加でしょうか。全体的な患者スループットの向上でしょうか。収益と利益の増加でしょうか。患者の転帰の改善でしょうか。患者満足度の向上でしょうか。また、パフォーマンス指標はどのような方法で測定され、どのようなデータが必要なのでしょうか。患者満足度のような指標は、収益のような指標に比べて測定が困難なものがあります。
医療機関のCHROは、必然的に多くの求人案件を抱えることになりますが、そのすべてに求人活動を行うことは不可能であることを理解しています。特定のポジションで成長できる社員を見極め、必要なスキルや経験を特定し、必要なトレーニングを受けさせるなど、キャリアのロードマップを描く手助けをすることが必要です。Workplace intelligenceが実施した「AI at Work」調査によると、83%の従業員がキャリア変更を望んでいるものの、社内に成長機会がない、変更を起こすのに十分な自信がないといった障害に直面しています。そのような障害を取り除くのはCHROの腕にかかっており、テクノロジーを活用することが可能です。調査対象となった従業員の85%は、スキルギャップの特定、スキルアップ方法の推奨、キャリアアップにむけた次のステップを提供するテクノロジーへのアクセスを望んでいると回答しました。
ほとんどの医療機関は、基本的な人事テクノロジーを使用して、給与計算、福利厚生、採用、トレーニングなどを管理しています。しかし、その多くは、すでに料金を支払っている人財管理(HCM)アプリケーション・スイートの機能を活用できていません。2021年のPwC Pulse調査に回答したCHROの66%は、人事システムやツールの導入が最大の課題であるとし、63%はデジタルに精通した人事担当者の採用を行っていると回答しています。5つの州で17の病院と165の医療クリニックを運営するProspect Medical Holdingsは、無数の接続されていないシステムに代わる新しいクラウドベースのHCMシステムを最大限に活用し、17000人の従業員の情報に素早くアクセスすることができています。このほかにも、柔軟なスケジューリングや従業員への休憩時間の通知、経営陣による定期的なコミュニケーションなど、従業員が組織とのつながりを感じられるような機能を多数備えています。
Oracle Fusion Cloud Healthcare Human Capital Management の多くの機能の中には、インテリジェントなリクルーティング・アプリケーションがあり、雇用主は採用イベントの推進、優秀な候補者の特定、選ばれた候補者との会話の開始、求人応募プロセスの案内を支援します。
成功事例適切な人材を採用した後は、その人材が入社しやすいようにしたいものです。オラクルのCloud HCMは、新入社員が組織に溶け込めるよう、パーソナライズされたガイダンスを提供します。また、新たな、またはより幅広い機会を模索し始める時期がきた際には、Oracle Cloud HCMは、目標、タスク、および目標成果を含む、パーソナライズされたキャリア開発ロードマップを構築するツールを提供し、キャリアの次のステップに向けた準備を支援します。
組織の文化を追跡し、測定し、改善することで、採用や職業能力開発に関する優れた決定を強化します。オラクルのCloud HCMは、医療機関の雇用主による従業員との双方向のコミュニケーションを促進し、従業員からのフィードバックを分析して、文化を洗練させる上で役立ちます。
医療業界は猛烈なペースで変化しており、CHROには備えが必要です。新たな疾病の蔓延、 業界全体の労働者不足、政府による新規制、デジタルおよび物理的セキュリティの新たな脅威、競争の激化などは、彼らが直面する課題の一部に過ぎません。高齢の臨床医やサポート・スタッフが退職し、ワークライフ・バランスに対する考え方が異なるデジタル・ネイティブに置き換えられると同時に、医療従事者も変化しています。そのような変化に組織と従業員を対応させることは、CHROの最大の責務であり、ひいては人の命を救う上で極めて重要です。
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CHROの役割について
CHROは、組織内の最高幹部である役員の一人です。CHROは人事と労務を監督し、人事戦略の策定と実行、経営陣や取締役会への労働力問題の伝達を担っています。
CHROに必要な資質とは
CHROが組織にもたらす能力は様々です。中には人事管理の修士号を有する人がいます。また、営業、コンサルティング、事業開発など、他の事業領域から移籍してきた人もいます。さらには、人事部の下級職から昇進していく場合もあります。
CHROになるにはどれくらいの期間が必要でしょうか。
Society for Human Resource Managementによると、CHROになるには一般的に15年以上の経験、そのうち5年以上の役員人事の経験が必要とされています。