変化するHRMにおけるAIの役割

Alex Chan |コンテンツ・ストラテジスト| 2024年8月7日

人工知能が人事管理の主要目標を変えることはありませんが、企業は依然として、全体的なビジネス目標の達成を支援する有能な従業員の採用し、維持し、育成を必要とされます。しかしHRMには、人事担当者の時間を過度に奪う手作業が数多く存在し、人工知能はそのワークロードを軽減する方法を提供しています。このような定型業務によって、人事チームが、採用のための新しい人材プールの発掘、変化する業務需要に対応するための従業員のスキルアップ、より有意義なパフォーマンス・レビューの方法に関するマネージャーのトレーニングなど、HRMのより創造的な側面に時間を費やすことができなくなります。毎日の人事管理ワークフローにおいて時間短縮を可能にする機能を直接提供することにでより、AIは人事チームがより戦略的な業務に集中できるよう支援します。

人事管理(HRM)とは

人事管理(HRM)とは、企業のビジネス・ゴール達成を支援するために従業員の採用、サポート、動機づけを行う戦略的アプローチです。HRMには、人材募集、採用、トレーニング、報酬、従業員の能力開発など、企業に人を迎え入れ、その成長を支援するために必要な、実践的でプロセス指向のすべてのステップが含まれます。また、パフォーマンス、生産性、満足度、定着率などの成果のモニタリングも含まれるため、企業は従業員への投資が成果に与える影響を把握できます。

HRMにおいてAIが重要な理由

HRMにおいてAIが重要な理由は、従業員に優れたエクスペリエンスを提供し、人事担当者がより価値のある反復的ではない業務に費やす時間を増やすことができる可能性にあります。AIは、オンボーディング時の従業員からのよくある質問への回答など、反復的なタスクの自動化を支援します。また、年間を通じて業務パフォーマンスのデータや同僚からのフィードバックを収集し、業績評価の下書きをまとめたり、従業員向けにカスタマイズした学習計画を作成することにより、従業員の能力開発を支援することができます。生成AIを使用することで、人事部門は職務記述書や求職者へのメール応答の下書きといった手作業にかかる時間を短縮することが可能です。人材管理ソフトウェアは長年にわたりHRMの効果を向上させるために使用されてきましたが、さらにAIは効率と効果の向上を実現する新たな機会をもたらします。AIの活用により時間を短縮することで、人事担当者はビジネス部門のリーダーとの人材配置戦略の策定、従業員の業績および満足度の傾向分析、従業員エクスペリエンスを向上させ、組織のゴールを支援する新しい戦略の導入などの業務にさらに集中することができます。

HRMにおけるAIのメリットと課題

HRMにおけるAIのメリット

多くの重要な責任を担っているHRMチームの時間は、非常に貴重です。AIは、求職者への返信やその他のコンテンツの下書きなどの反復的なタスクを支援することで、有意義なワークロード軽減方法を提供し、AIがサポートする分析および高価値な業務により多くの時間を割くことを可能にします。

  • 管理業務における時間の節約: AIは、新しい求人広告の作成や、募集職種に最適な求職者の特定など、人事の手作業と反復的な作業を支援することができます。企業文化と募集職種に必要なスキルに関する情報収集機能により、AIが職務記述書を下書きし、それを人事担当者がレビューおよび最終化することで、的確かつ優秀な人材にアピールできる内容にすることができます。
  • データに基づく意思決定の強化: 人事部門は、従業員の業績とエンゲージメントに関するデータを収集できるAIの支援により、さらに十分な情報に基づく意思決定を行うことができます。このデータは人事チームに貴重なインサイトをもたらし、従業員に影響を及ぼしている特有の問題を見極め、その改善に向けた適切な対応を支援することができます。たとえば、人事部門が企業の従業員のスキル監査を行う場合、AIは従業員プロファイルの情報を使用して既存のスキルをドキュメントにまとめ、現在の求人情報や市場動向に基づいて最も求められているスキルと比較することを支援することが可能です。人事担当者は、そのデータを使用して組織内のスキルギャップを特定し、そのニーズに対応するスキルアップまたは採用プログラムを開発することができます。
  • 従業員のエンゲージメントの向上: AIのデータ集約機能は、従業員が評価およびエンゲージメントされていると感じる、パーソナライズされたエクスペリエンスを提供する上で貴重なツールとなります。たとえば、通年で従業員の達成度、学習パターン、パフォーマンスメトリクスを追跡することができます。そして、そのデータを使用して、個々の従業員にカスタマイズした育成計画を策定することが可能です。

HRMにおけるAIの課題

新しいテクノロジーを取り入れることは常に困難を伴います。予測すべきことを知ることにより、潜在的なマイナス要因の軽減を支援します。

  • サイバーセキュリティとデータ侵害のリスク: 人事部門は、社会保障番号、給与情報、銀行口座詳細など、常に機密性の高い従業員情報を扱っています。厳格なデータ保護ポリシーとシステムがない場合、これらの情報は不正なアクセスと悪用の対象となる可能性があります。また、AIモデルが分析やコンテンツ作成のためにアクセスする人事データについても同じことがいえます。
  • 透明性の欠如: AI ツールによっては、どのような方法で得られたものなのかを説明することなく結果を生成するものもあります。人事担当者は、AIモデルが推奨事項と結論を導き出す方法を把握し、それが的を得ていることを継続的に検証することを望みます。
  • コスト: ビジネス・ゴールとテクノロジー戦略が連携していない場合、AIの導入には高いコストがかかることがあります。独自のAIモデルを構築またはチューニングすることは、ほとんどのHRMユースケースにおいて適切な方法であるとは言えません。HRMシステムに組み込まれたAIモデルおよび生成AIツールの使用は、データ・サイエンティストの採用、モデルのトレーニング、アドオンAIツールへのデータ移行を不要にする、より実用的なアプローチです。

人事におけるAIの導入

人事のユースケースにAIを導入する際には、正確でタイムリーなデータを利用していることを確認する必要があります。AIモデルが学習し、適切な応答を生成するためにはデータが必要であることから、信頼できるデータセットを用意することは、AIを効果的に部門に導入する上で不可欠です。

HRMでAIを活用する際に考慮すべき導入オプションは、大きく分けて2つあります。最も一般的なアプローチは、採用担当者が求人要項の下書きを支援するために使用できる採用ソフトウェアに組み込まれた生成AIツールのような、人事アプリケーションに組み込まれた機能としてのAIの導入です。アプリケーションに組み込まれたAIの利点は、必要なときにワークフロー内で使用でき、導入や使用に際してAIに関する幅広い知識を必要としないことです。

また、クラウドベースのインフラストラクチャにAIモデルを導入し、組織が持つ特定のニーズやユースケースに対応できるように改善することも可能です。クラウド環境では、モデルをスケールできるほか、モデルのトレーニングに必要な容量が得られます。しかし、独自のモデルの改善とトレーニングはコストがかかり、AIに関する深い知識が求められ、アプリケーションではサポートできない特定のユースケースが企業に存在する場合以外必要とならないため、ほとんどの人事組織では行われません。

組織にAIを導入する際に考慮すべきもう1つの点は、ビジネス・ニーズへの対応には「従来のAI」と「生成AI」のどちらが最適かということです。従来のAIは、大規模なデータセットを分析して推奨を行ったり、差異を特定したり、傾向を見出すといった機能を備えています。一方、生成AIには、ユーザーが提供するプロンプトに応じて新しいテキスト、画像、動画、音声、その他のコンテンツを作り出す機能が備わっています。これらの機能は、従業員からのフィードバックの要約を作成するなどの作業を支援することができます。従来のAIと生成AIの機能は、どちらもHRMアプリケーションに組み込んで利用することが可能です。

導入後は、新しく導入したAIが期待通りの成果をもたらしているかを確認する必要があります。つまり、新しいテクノロジーのユーザー満足度、機能性、精度に関するデータの収集によるモニタリングと定期的なアップデートを行うことになります。

HRMにおけるAIの例

  • 採用におけるタスクの自動化: AIは、求人要件に適したスキルと経験を持つ求職者の特定を支援することにより、人事担当者の採用活動をサポートすることが可能です。このテクノロジーはAIアルゴリズムと機械学習を使用して、採用担当者が多数の応募者プールからポジションに最適な求職者を特定できるよう支援し、人事部門の時間短縮とコスト削減を実現します。採用プロセスにおいて、人事担当者は求人広告の初稿作成を支援するために生成AIを使用することもできます。生成AIは、ポジションや企業のブランド、文化、価値、福利厚生に関する関連情報を収集し、明確にすることで、人事担当者がレビューおよび修正できる下書きを作成します。
  • 新しいチーム・メンバーのオンボーディング: 組織が優秀な人材を採用した後は、AIが新しいチーム・メンバーのオンボーディングを支援し、時間のかかる管理業務の負担を軽減できます。たとえば、AIによるチャットボットを使用して、「私の医療保険はこれらをカバーしていますか」といったよくある質問への回答を支援することができます。AIはまた、従業員のこれまでの職務経験に基づいて、職務に応じた特定のトレーニングを提案したり、新入社員にバディを推薦することを支援することも可能です。新入社員に独自のニーズがある場合、AIはカスタマイズされたオンボーディング・エクスペリエンスを作成できます。これには、スキルセットや組織内でのキャリア目標に基づいた30日、60日、90日のマイルストーンの提案が含まれることがあります。パーソナライズされた効率的なオンボーディングは、新入社員のエンゲージメントを維持し、正しい第一印象を与え、より短期間で生産性を発揮できるように支援します。また、これらの作業に必要となる人手を削減することは、人事チームが新しいチーム・メンバーとの連携を深め、組織に慣れるよう支援する時間を増やすことにもつながります。
  • 能力開発機会の提供: 従業員に新しいスキルの習得と育成の機会を提供する企業は、従業員の定着率が高い傾向があります。AIは、従業員の個々の学習パターンを分析し、そのデータを使用してカスタマイズされたトレーニング教材を作成するとともに、進捗状況に基づいてラーニング・パスを調整することで、トレーニングと能力開発をサポートすることができます。また、従業員の在職期間、トレーニング、経験、パフォーマンスメトリクス(達成した目標や受けたパフォーマンス・フィードバックなど)を調べることで、目標や次のステップに向けた実用的なアドバイスの下書きやその他の能力開発に関する推奨事項の作成も可能です。従業員のプロフェッショナルとしての成長に投資することは、従業員に評価されていると実感させ、従業員エンゲージメントと定着率を向上させることにつながることがあります。
  • 従業員エンゲージメントの向上: 個人的で従業員のニーズに合わせた従業員エクスペリエンスの提供はエンゲージメントの向上をもたらします。そして、AIはそれを支援することが可能です。AIツールを使用して、従業員の個人的な目標や 企業の現在のニーズに関する情報に基づき、カスタマイズされた育成プログラムを作成できます。その上、AIは、パフォーマンス評価や企業活動への従業員の参加レベルなど、従業員のパターンの特定とモニターを支援することも可能です。このデータを追跡することで、人事部門はエンゲージメント低下を予測し、従業員が離職を決意する前に、マネージャーと従業員の間でパフォーマンス評価の際に会話を深めるなど、解決策を見出すための時間を十分に確保できます。
  • パフォーマンス管理の強化:常に情報を収集するAIの機能は、年間を通じて従業員の業績データ、同僚とマネージャーからのフィードバックを収集するために利用できます。AIは、この情報を使用して、業績評価の出発点となる個人の仕事に関する完全な要約を作成することができます。AIを使用してパフォーマンス管理業務を行うことで、直近の経験を過度に重視する傾向の回避を支援することが可能です。さらに、マネージャーは従業員の業績に関する箇条書きから開始し、生成AIを使用してそうしたメモをレビューおよび修正可能な業績評価の下書きにすることができます。つまり、マネージャーは業績評価のための文章作成に費やす時間を減らし、従業員の仕事、行動、成果についての有意義な会話に費やす時間を増やすことができるのです。

HRMにおけるAIの未来

AIの導入はまだ初期段階ですが、有望な兆候が見られます。2024 年に Deloitte が実施した生成 AI に関する調査では、生成AIに関する非常に高い専門知識を有する組織の70%が既存のサービスと製品を改善していると回答し、45%が生成AIへの取り組みにより削減されたコストをさらなるイノベーションの機会に再投資する予定であると回答しています。現在の業務環境におけるAIの存在は、さらなる時間短縮をもたらす自動化、パーソナライズ、データ・インサイトを実現する機会を提供します。採用やパフォーマンス管理など、時間のかかる人事管理業務に従事する必要があるプロフェッショナルは、生成AIを利用することで、多くのプロセスの速度と効率を高め、より価値のある業務に時間を割くことができます。また、AIサポートツールは従業員のワークライフの改善も可能にします。たとえば、チャットボットはシンプルな質問に迅速に回答し、トレーニング・モジュールはキャリアアップを支援する開発プログラムを提案し、業績評価分析はマネージャーとのより適切なディスカッションをサポートすることが可能です。

AIを活用して人事チームを成功に導くには、このテクノロジーができることと、AIが人事管理にもたらす新しい機能と機会に人事担当者が適応する方法を理解することが重要です。

オラクルによるHRMの強化

人事のあらゆるレベルにおいて、組織に最も大きな影響を与えるリーダーは、新入社員、従業員、マネージャーなど、より多くの人とつながることに費やす時間を増やし、単純作業に費やす時間を減らしています。適切な人事管理ソフトウェアと組み込みのAI機能を使用することで、人事チームを雑務から解放し、より有意義な業務へと導くことができます。

Oracle Fusion Cloud HCMは、採用のスピードアップ、従業員エクスペリエンスのパーソナライズ、従業員感情の把握と分析、スキル・トレーニングと能力開発の機会の提供、従業員動向の分析とモニターを支援するツールを使用して、従業員を効果的に管理できる包括的なクラウド人事ソリューションです。オラクルのHCMアプリケーションに組み込まれたAI機能により、人事担当者と従業員は、職務記述書の作成時でもオンボーディング・チェックリストの記入時でも、自分のワークフローでAIツールに直接アクセスできます。単一のユーザー・エクスペリエンスとデータ・モデルに加え、組み込みのAIにより、Oracle Cloud HCMは、グローバルな人事プロセスの計画、管理、最適化および豊かな従業員エクスペリエンスの提供を支援できます。また、企業のスキル・インベントリのモニターと分析、従業員への学習機会の推奨、業績評価の要約作成、およびさまざまな人事プロセス全体を通して従業員に状況に応じたサポートを提供することを支援することができます。

HRMにおけるAIに関するFAQ

HRMにおけるAIの活用が企業の競争力を強化する仕組みを教えてください。
AIは、人材獲得やパフォーマンス管理といった分野のプロセスを自動化することで、コスト削減、効率の向上、多くの手動タスクに煩わされないことによる人事リーダーの高レベルなパフォーマンスを支援し、企業のHRM戦略に競争力をもたらすことができます。

人事における責任あるAIの使用について教えてください。
人事における責任あるAIの使用例には、AIを使用した求人広告の作成、マネージャーがレビューおよび最終化できる業績評価の下書き、企業のスキル在庫の分析とギャップを埋めるためのトレーニング・オプションの推奨などが含まれます。

AIで人事の意思決定を支援できる方法を教えてください。
AIは、従業員のエンゲージメントとパフォーマンスに関するデータを収集および理解し、迅速かつ正確で効果的な意思決定を行うために人事担当者が必要とするインサイトを提供できるように支援します。たとえば、AIモデルは、自社のスキルに関するデータを収集し、自社や 同業他社の最近の求人情報で求められているスキルと比較して、スキル・ギャップを特定し、そうしたギャップに対処するためのキャリア開発プログラムの作成を支援することができます。

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