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マルチクラウド展開にまつわる既成概念を覆す

Oracle Cloud Infrastructure 製品管理担当バイスプレジデント レオ・リャン(Leo Leung)—2022年8月19日
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クラウド・コンピューティングの登場から10年が経過し、このIT導入モデルを取り巻く既成概念を見直す時期に来ていると言えるでしょう。パブリック・クラウドが基本的に1つしかなかった初期の頃は、1つのクラウドに力を注ぐことは理にかなっていました。しかし、有能なクラウド・オプションが複数存在する今、これまでの常識を払拭し、マルチクラウドの採用が技術的にも経済的にも理にかなっていることを受け入れるべき時が来ているのです。

事実とフィクションを比較して検証してみましょう。

1、本番環境では誰もマルチクラウドを利用していない
事実ではありません。企業にとってマルチクラウドは戦略的に不可欠である、とほぼすべてのIT調査会社が述べています。

具体例としては、ゲームサービス事業をメインとし、累計80ゲームタイトル以上を運営する株式会社マイネットのような企業が挙げられます。同社は、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)を含む7つのクラウドを活用した独自の「スマート運営」で、個々のゲームタイトルの収益性を高めています。

また、テレワークのパイオニア企業であるGoToは、Kubernetesコンテナ管理を利用して、OCIとAmazon Web Servicesでワークロードを実行しています。GoToは、複数のクラウドを利用することでレジリエンス(回復力)と可用性を向上させています。いずれかのプロバイダーで障害が発生した場合でも、運用を別のプロバイダーにルートするなどの対応を行うことで、お客様のオンライン状態を維持することができます。これこそ、スマートなITの展開と言えるでしょう。

2、マルチクラウドはシングル・クラウドよりも高コストである
いいえ。パブリック・クラウドでは、コンピューティング、ネットワーク、ストレージの各サービスが提供されており、それぞれの価格は、プロバイダーによって大きく異なります。激化したクラウド競争のメリットの1つは、一部のプロバイダーが特定のサービス・カテゴリーで極めて競争力の高い価格を提供するようになったことです。あるプロバイダーが低コストのリーダー企業であると主張したとしても、そうであるとは限らないことを忘れないでください。

エンドユーザーに大量のデータを送信する必要がある場合は、各プロバイダーのデータ送信料金(またはネットワーク・アウトバウンド料金)に注目してください。需要が予想外に急増すると、料金の総額は驚くほど高額になります。たとえば、あるインタラクティブ・ビデオ・サービスでは、AWSの代わりにOCIを利用することで、データ送信料金を80%節約しています。

オラクルは、2016年にOCIの提供を開始する前に、アウトバウンド・ネットワークを競争力の高い価格で提供しても収益が得られることを計算によって把握していました。昨年11月、オラクルは不当なネットワーク料金に対抗するためにCloudflareが立ち上げたBandwidth Alliance(帯域幅アライアンス)に加わり、次の一歩を踏み出しました。

クラウド間のデータ転送コストを削減できれば、マルチクラウドの採用に立ちふさがる大きな障害を排除できます。

3、マルチクラウドは遅い
これも誤りです。データ転送では、特に長距離の場合にレイテンシ(遅延)が問題になることがありますが、現在はすべてのクラウド・プロバイダーがそれぞれの物理インフラストラクチャを互いの近くに配置(専門用語では「コロケーション」)しているため、これはさほど問題となりません。この近接性(場合によっては同一コロケーション施設内の別の部屋)は、クラウド間のレイテンシがミリ秒単位であることを意味します。それに加え、クラウド・データセンター・リージョンは世界中で増加しており、クラウド・リージョン間の距離は縮まっています。

さらに、大手クラウド・プロバイダーの中には、それぞれのクラウドを直接接続しているところもあります。たとえば、オラクルとMicrosoftはOracle Azure Interconnectで連携し、OCIとMicrosoft Azureの間の高速プライベート・データ・フローを実現しています。これにより、データベースとアプリケーションをOCIで実行し、その他のアプリケーションとアナリティクスをAzureで実行している企業の多くでは、往復レイテンシは1.2~2.1ミリ秒に抑えられます。これは、ほとんどのエンタープライズ要件に十分な速度です。

Oracle Azure Interconnectを利用している医療デバイス大手のIntegra LifeSciencesは、ERPとサプライチェーン・ソフトウェアをOCIに移行し、それをAzure上のアナリティクスに接続することで、オペレーションを90%も高速化し、プロセスの効率を向上させています。

4、マルチクラウドは複雑すぎる
本当にそうでしょうか。このような議論は、ITの歴史の中で絶えず繰り返されてきました。企業は、ベンダーを統合して運用とサポートを簡略化するべきだと言われます。問題は、プロバイダーによって得意分野が異なるため、1社に依存しすぎてしまうと、お客様の購買力が低下してしまうことです。

オラクルとMicrosoftは、数十年にわたってオンプレミスの「複雑さ」に対応してきたお客様は賢明だと考えており、両社の共通のお客様が選択したクラウドで、選択したアプリケーションを利用できるように取り組んでいます。Oracle Azure Interconnectの重要な側面は、その複雑さに対応していることです。企業は、OCI Identity and Access ManagementまたはAzure Active Directoryを利用して、いずれかのクラウドで稼働中のリソースにシングル・サインオンでアクセスできます。

賢いベンダーであれば、今後の見通しを予測し、クラウド間の相互運用を容易にするために、より多くのサービスを展開するでしょう。人気の高いオープンソース・ソフトウェア・パッケージの多くは(MySQL、Kubernetesなど)、すでにすべての主要クラウドで稼働します。

マルチクラウド戦略を採用するお客様とプロバイダーが多くなるにつれて、マルチクラウド管理および監視ツールも改善、拡張されます。オラクルは、複数クラウドにまたがるオープンソース・データベースの実行や、マルチクラウドの監視と管理について、近日中にさらに詳しく説明する予定です。

マルチクラウド・モデルは持続する

現実には、クラウドに流入する企業のデータやワークロードが増加するに連れ、企業のお客様は、サービスを提供するプロバイダーに関係なく、自社のニーズに最も適したサービスを利用するようになります。

それと同時に、企業は基本的なコンピューティング、ストレージ、ネットワーキング・サービスのクラウド間の価格差を検討するようになります。特に、クラウド間、またはクラウドから自社のお客様へのデータ・フローにかかる料金が、手頃で上乗せのないものであることを強く求めます。

クラウド・コンピューティングの比較的短い歴史の中で、最初は誰も何もクラウドに移行しないだろうと言われました。次に、本番環境や戦略的なデータをクラウドに移行する人はいないだろうと言われました。その後、マルチクラウドの危険性が喧伝されました。しかし、テクノロジーは真空を嫌い、ビジネスリーダーは選択肢を持つことを好むため、そのような確信性もすぐに消え去りました。

今日の現実は過去とは異なり、未来は今日とは異なるものになります。常に変わらないのは、お客様にはより多くの、より優れた選択肢が用意されるということです。お客様を手放したくないプロバイダーは、そのことに留意した方がよいでしょう。

本記事は、TechCrunch Brand Studioでオラクルが公開した「Debunking the ancient myths of multicloud deployment」の抄訳です。