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~オラクル・コンサルタントの Big 3(大竹、大野、大木)が語る~
データベース運用における Oracle Enterprise Manager 徹底活用への道
第2回 オラクル・コンサルタントが語る、Database 性能分析を効率化する AWR Warehouse活用のススメ -前編-



[著者紹介]
日本オラクル株式会社
コンサルティングサービス事業統括
クラウド・テクノロジーコンサルティング事業本部
大木 和田留(おおき わたる)

新卒として日本オラクル入社後、Exadataを始めBig Data/移行/セキュリティ周りの製品群を担当。
様々な製品のコンサルティングを経験する中で、EMによる運用効率化の素晴らしさに気づき啓蒙活動中。
困ったことがあった際、最初に相談して頂けるコンサルを目指し日々精進中。


本記事では、Oracle Enterprise Manager Cloud Control(以下、EMCC)の機能であるAWR Warehouseについて、その使い方と活用例を記載します。

AWR Warehouse は、EMCC 12c Release 4以降で使用可能な機能であり、特に大量のDatabase(以下、DB)を管理されているお客様にお奨めの機能です。

なお、本記事で取り扱う EMCC の画面例やマニュアルの参照情報は、特に断りがない限り Oracle Enterprise Manager Cloud Control 13c Release 2 を対象とします。また、監視対象やリポジトリとして使用するOracle Database は 12c Release 1 を対象とします。

1. AWR Warehouseの概要

AWR Warehouseを一言で表すと、その名の通りAutomatic Workload Repository(以下、AWR)を格納するための巨大な倉庫です。具体的には、複数データベースのAWRを一元的に長期保存し、分析するための保管庫としてはたらきます。


図1: AWR Warehouseにより実現できること

では、このAWR Warehouseはどのように活用できるのでしょうか。
各DBでAWRを保管している場合、保存期間が短い点、一元管理ができていない点などに日々の運用の中で課題を感じられている方も多いのではないでしょうか。
この課題の詳細について、複数の業務システムを担当するDBAがAWRを使用して性能分析を実施する時の運用イメージ例と併せて以下に記載します。

AWR Warehouse 導入前の運用課題
① 保存期間が短い 長期間のAWR情報を使用した性能分析/キャパシティプラニングを実施することが困難
② AWRが各DBで管理されている 本番環境へのアクセス手続きや各担当者との情報連携が必要な為、AWR入手に時間がかかる
異なるDBの性能比較(本番/検証)に手間がかかる


図2: AWR Warehouse導入前の運用イメージ

AWR Warehouseを導入することにより、長期保存およびAWRの一元管理が可能になる為、上記の運用課題が解決でき下記の運用改善効果が期待できます。


AWR Warehouse 導入後の運用改善
① 長期保存の実現 長期間のキャパシティプラニング実施が可能になるだけでなく、AWRレポートのアーカイブおよび退避運用が不要になる
② AWRの一元管理 AWR情報のみを集約した独立したDBの為、DBA担当者が直接アクセスする運用も可能になり、AWR取得にかかる時間が短縮される
異なるDBの性能比較(本番/検証)が容易になる (3.3 AWR期間比較レポート参照)


図3: AWR Warehouse導入後の運用イメージ

AWR Warehouseの導入により性能分析の運用改善が可能になることをイメージしていただけたでしょうか。


次は、AWR Warehouseのアーキテクチャを説明します。

2. AWR Warehouseのアーキテクチャ

AWR Warehouseのアーキテクチャ図は以下の通りです。


図4: AWR Warehouseのアーキテクチャ

通常のEMCCサーバと最も異なる点として、Central AWR Warehouse repository(以下、CAW)と呼ばれる独自のリポジトリデータベースが存在します。

CAWは必ずしも独立したデータベースである必要はなく、技術的にはEMCCのリポジトリDBをCAWとして使用することも可能です。
ただし、EMCCのリポジトリとCAWは別データベースとする事を推奨します。
理由として、CAWは大量のAWRを保管し処理するため、AWR WarehouseによるDB負荷がEMCCにも影響する可能性があるためです。
※別途サーバを用意できる場合は、EMCCサーバと異なるサーバにCAWを構成することでCPUやメモリ等のサーバリソースの競合を抑制することも可能です。

また、通常EMCCの監視対象データベースは「ターゲットDB」と表現されますが、AWR Warehouseから見るとAWRの抽出元となるため、「ソースDB」と呼ばれることも覚えておいてください。

このソースDBよりOracle Management Agent(以下、OMA)が定期的にAWRを取得し、EMCCサーバに転送、CAWにロード、という流れでAWRを集約していくメカニズムとなっています。


では、このAWRの集約処理はどのような頻度で実施されるのかを見ていきましょう。
デフォルトでは下記のようにジョブとしてスケジューリングされており、ソースDBからのAWR抽出間隔を変更することができます。
※AWR転送間隔は抽出間隔の半分として自動計算されます。


図5: AWR WarehouseのAWR集約処理の動作解説

なお、AWR抽出間隔(スナップショット・アップロード間隔)はAWR Warehouse構成時に変更することが可能です。
AWR Warehouseで定常分析を実施する場合に、どの程度最新の情報を分析したいかという要件に応じて時間単位で設定します。
※一日前までの最新情報が欲しい場合は24時間に設定など


図6: AWR抽出間隔の変更画面

また、特定DBにおいて緊急の分析が必要となった(AWR抽出間隔を待てない)場合などにAWR Warehouseダッシュボードより任意のタイミングでAWRのアップロードを実行することも可能です。


図7: AWRスナップショットの手動アップロード画面


それでは次に、AWR Warehouseの標準機能としてどのようなことができるのかを解説します。

3. AWR Warehouseの標準機能

AWR Warehouseを構成すると、EMCCコンソールよりAWR Warehouseダッシュボードが使用可能となります。
※AWR Warehouseの構成方法は次号で解説いたします。

AWR Warehouseダッシュボードには、EMCCコンソールより以下の通りタブを辿っていくことでアクセスできます。

「ターゲット(T)」 -> 「データベース」 -> 「パフォーマンス」 -> 「AWR Warehouse」


図8: AWR Warehouseダッシュボード画面

この画面では、AWR WarehouseのソースDBとして登録されているDB一覧の確認、
及び各種分析機能を操作できます。

また、AWR Warehouseの分析機能ならではのデータソースの切り替えについても覚えておきましょう。

データソースは、各種機能の画面右上プルダウンメニューから選択可能です。


図9: AWR Warehouse分析画面例

選択できる項目と参照先は以下の通りです。
「履歴 – AWRウェアハウス」は、言葉通りCAWに蓄積されたAWRをデータソースとします。
一方、勘違いしやすい項目として「履歴 – ローカル」があります。
これは「ソースDBで設定している保持期間内のAWRをデータソースとする」という意味になります。

また、トップ・アクティビティに限り「リアル・タイム」が選択可能です。
こちらを選択すると内部的にソースDBのV$ACTIVE_SESSION_HISTORYを参照する動作となります。


図10: データソースのイメージ解説

プルダウンメニュー 参照先
履歴 – AWRウェアハウス DBA_HIST_xxx表
(CAWのSYSAUX内)
履歴 – ローカル DBA_HIST_xxx表
(ソースDBのSYSAUX内)
リアル・タイム: 15秒リフレッシュ
リアル・タイム: 手動リフレッシュ
※トップアクティビティのみ
V$ACTIVE_SESSION_HISTORY
(ソースDBのメモリ上)
表1: データソースの詳細解説



次に、各種機能の概要を解説します。

3.1 ASH分析

ASH(V$ACTIVE_SESSION_HISTORY)をグラフィカルに分析するための機能です。
こちらは通常のEMCCにも搭載されている機能ですが、AWR Warehouseコンソールから使用した場合、CAW、及びソースDB上の複数DBの情報を1画面から分析することが可能となります。


図11: ASH分析の画面例

3.2 トップ・アクティビティ

ASH分析同様にASH(V$ACTIVE_SESSION_HISTORY)をグラフィカルに分析するための機能です。
ASH分析と異なる点として、ソースDBのリアル・タイムな情報も監視可能です。

AWR Warehouseダッシュボードより、「パフォーマンス・ホーム」-> 「トップ・アクティビティ」とタブを辿ることでアクセスできます。


図12: トップ・アクティビティの画面例

3.3 AWR期間比較レポート

異なる期間のAWRレポート間の差分表示できる機能です。
更にAWR Warehouseでは異なるソースDB間でも比較が可能です。

例えば、検証環境と本番環境での性能比較などを行う場合に使用すると便利な機能となります。




図13: AWR期間比較レポートの画面例

3.4. 期間比較ADDM

2つの異なる期間のAWRを比較し、診断してくれる機能です。
AWR期間比較レポートと同様、AWR Warehouseでは異なるソースDB間でも比較が可能です。





図14: 期間比較ADDMの画面例

本項ではAWR Warehouseの標準機能について解説しました。
しかし、AWR Warehouseの魅力はこれだけに尽きません。

AWR分析を実施された事がある方はご存知かもしれませんが、AWRには多岐に渡るデータベースの情報が格納されています。
それらのデータを使って自分が見たい性能情報をカスタマイズして自動でグラフ化できたら素敵ではないでしょうか。


では次は応用編です。

4. BI Publisherとの連携

皆様はEMCCに搭載されているBI Publisherという機能を耳にしたことがありますでしょうか。

BI Publisherは様々なデータソースからグラフィカルなレポートを作成、配信できる機能です。EMCCをご利用の際、AWRデータなどEMに関するレポートについては無償で使用できます。

このBI PublisherとAWR Warehouseを組み合わせることで、CAWに保管しているAWRを用途に応じて自動でグラフ化することが可能となります。

以下のグラフはAWR Warehouseに蓄積したAWRをBI Publisherを使用して自動でグラフ化した例です。


図15: BI Publisherのレポート画面例

このようなレポートを定期的に自動作成し、レポートとしてメール配信することも可能です。
もし読者の皆さんの中に、月に数十DBの分析を担当されているDBAの方がいらっしゃいましたら、毎月の分析業務に使っている工数が大幅に削減されるイメージが湧いてくると思います。

AWR Warehouseで大量のDB情報を集約/長期保管し、BI Publisherで性能情報の自動グラフ化/レポート配信を実現することが可能なのです。
これにより、DBAは定期的に配信されるレポートのグラフを見て、コメントをするという本来の目的である分析業務に集中することが可能となります。分析するためのデータ収集や加工に時間を割く必要がありません。

BI PublisherとAWR Warehouseの連携方法、及びカスタムグラフの作成方法については本連載の第4回、第5回で掲載予定です。興味が湧いた方はこちらも是非ご一読ください。

AWR Warehouseの概要と活用例をご紹介させて頂きました。
この機会にAWR Warehouseを導入してみたいと感じて頂ければ幸いです。

最後に、AWR Warehouseを導入するにあたり、必要なライセンスと制限事項についてみていきましょう。

5. AWR Warehouseのライセンス

ソースDBとCentral AWR Repositoryは以下のようなライセンス体系となっています。
まとめると、AWR Warehouseを構成するのに必要なライセンスはソースDBの「Diagnostics Pack」のみとなります。

5.1 ソースDB

AWR Warehouseの各ソースDBにはDiagnostics Packが必要です。
こちらは以下のマニュアルに記載されています。

Oracle® Databaseライセンス情報ユーザー・マニュアル 12cリリース1 (12.1)
2 オプションおよびパック
https://docs.oracle.com/cd/E57425_01/121/DBLIC/options.htm#CIHIHDDJ
(April 14, 2017, 16:06 p.m. UTC+9)

5.2 Central AWR Repository

Central AWR Repository DBは、AWR Warehouse用のみとしての利用に限りライセンスは不要となります。これはEMCCリポジトリDBと同様、使用制限付きライセンスという考え方にもとづきます。詳細は以下のマニュアルをご参照ください。

Oracle® Enterprise Managerライセンス情報ユーザー・マニュアル 13cリリース2
1.5 Enterprise Managerの使用制限付きライセンス
https://docs.oracle.com/cd/E83823_01/OEMLI/GUID-7B2095D3-4E88-4346-9566-638219FF1130.htm#GUID-5AD24A80-3583-4949-AD76-14881B6B3F9F
(April 14, 2017, 16:05 p.m. UTC+9)

6. AWR Warehouse構成DBの制限事項

AWR Warehouseを構成する上で、ソースDB/CAWのバージョン、及びCDB/Non-CDBの制限事項に注意する必要があります。

6.1 ソースDB

AWR WarehouseでサポートされるソースDBのバージョンは以下の通りです。

  • • サポートされるAWRソースDBバージョン
    • – Oracle Database 10.2、11.1および11.2
    • – Oracle Database 12.1(CDB & non-CDBのSingleおよびRAC)

また、後述するCAWのバージョンよりもソースDBのバージョンは下位バージョン、
あるいは同一バージョンで構成する必要があります。

Master Note on AWR Warehouse (ドキュメントID 1907335.1)
※弊社 My Oracle Support 内のドキュメントであるため、参照にはMy Oracle Supportのアカウントが必要になります。 

6.2 CAW

AWR WarehouseでサポートされるCAWのバージョンは以下の通りです。

  • • サポートされるCAWバージョン
    • – Oracle Database 11.2.0.4(要パッチ)
    • – Oracle Database 12.1.0.2(non-CDB)

11.2.0.4を使用する場合に必要なパッチ情報は以下のDocをご参照ください。

Master Note on AWR Warehouse (ドキュメントID 1907335.1)
※弊社 My Oracle Support 内のドキュメントであるため、参照にはMy Oracle Supportのアカウントが必要になります。

最後に

本記事ではAWR Warehouseの概要と活用例を解説させて頂きました。
次号では実際にAWR Warehouseを構成する上でのベストプラクティス、及び運用Tipsをご紹介します。この記事をきっかけにAWR Warehouseが運用効率化の第一歩となれば幸いです。