突き抜けていくITエンジニアは、どこが違う?
―ITプロフェッショナルの道を究めんとする人へのアドバイス

中堅と呼ばれる年齢までキャリアを重ねてきた読者の中には、今後も1人のエンジニアとしてプロフェッショナルの道を究めていこうと決意を固めている方もお られるだろう。ただし、常に人から頼られ、必要とされるエンジニアであり続けるのは、簡単なことではない。では今後、ITエンジニアとしてさらに突き抜け ていくためには、どう努力すればよいのだろうか。成功する人は、どこが違うのか? 長年、ITエンジニアのスキル体系「ITスキル標準(ITSS:IT Skill Standards)」の普及啓蒙活動に取り組んできたスキルスタンダード研究所の高橋秀典氏に、ITプロフェッショナルの道を究めんとする人へのアドバ イスをいただいた(編集部)。
 
スキルスタンダード研究所 代表取締役の高橋秀典氏。
1993年に日本オラクルに入社。研修ビジネスの責任者としてORACLE MASTER制度を確立し、システム・エンジニア統括/執行役員を経て2003年12月にITSSユーザー協会を設立。また2004年7月には、ITSS や情報システム・ユーザー・スキル標準(UISS:Users' Information Systems Skill Standards)を企業で活用するためのコンサルティング・サービスを提供するスキルスタンダード研究所を設立する。国内大手企業に対し、 ITSS/UISSの導入を支援してきたことで知られる。


■最近のエンジニアは技術力が低下?

――高橋さんはこれまで10年余りの間、ITSS/UISSの普及啓蒙に努める中で、多くのITエンジニアを見てこられました。その立場から、今日のITエンジニアの状況を、どうとらえていますか?

一口にITエンジニアと言っても、いろいろな立場の方がいらっしゃるでしょうが、総じて感じるのは、「以前と比べて技術力が落ちた」ということです。具 体的に言うと、技術の基礎となるアーキテクチャの理解不足が目立ちますね。その結果、応用力が不足し、ある特定の技術/製品には詳しいけれど、それ以外の 仕事はできないという人が増えているように思います。

――そうしたエンジニアは、活躍の場が限定されてしまいますね。

下手をすると"使い捨て"にされてしまいます。エンジニアを使う側からすれば、ある局面で、ある部分に関する能力を提供してくれさえすれば事足りるわけですから。

――どうして技術力が低下しているのでしょう?

組織の縦割り化が進んだとか、扱う製品の数が増えたとか、技術の発展速度が速まったとか、原因はいろいろと考えられます。いずれにせよ、一定範囲のこと をキャッチアップするのに精一杯で、アーキテクチャの基礎をじっくりと学んだり、研究したりする余裕も時間もないのでしょう。

■広く、長く必要とされるためには、基礎をしっかりと身に付けよ

――使い捨てされないエンジニア、皆に必要とされるエンジニアになるためには、どういったスキルを磨けばよいのでしょうか?

広く、そして長く必要とされるエンジニアになるためには、やはり基礎の部分からしっかりとした知識を付けなければいけません。完成した技術や製品の使い 方を知っているだけではダメです。例えば、リレーショナルデータベース(以下、RDB)なら、これがどのようなもので、どういったアーキテクチャに基づ き、これまでどのような経緯で発展してきたのかといったことを知らなければ、データベース・エンジニアとして長く生き残ることはできないでしょう。エド ガー.F.コッドの関係モデルに関する理論などは必修です。パラレル機能など、オプションの機能は年を追うごとに増えていますが、RDBの根幹の部分は何 十年もの間、何も変わっていません。その部分に関する知識をしっかりと身に付けることが大切なのです。

■会社の外に出て、自らの可能性を広げよ!

――近年は、ITSSやUISSのようなITスキル/職種フレームワークを導入し、エンジニアのキャリア・プランの設計を支援する企業が増えてきました。しかし一方で、まだそこまで至っていない会社もあるわけですが...

ITSS(IT Skill Standard)やUISS(情報システムユーザースキル標準)ではなくても、独自の専門職制度を設けている企業は、実はたくさんあります。しかし、組 織/業務の実態と合っていなかったり、うまく機能していなかったりといったケースが多いんです。それに、「あの部署の、あの仕事がしたい」と思っても、簡 単に部署異動できるような会社は滅多にないですしね。

そもそも、会社としては、一度何かの仕事で良い成果を出した人には、その後も、その仕事を頼み続けたいものなんです。当然ですよね、その人に頼めば、う まくやってくれることがわかっているわけですから。一方、本人の側も、それを仕方ないと思ってやり続けていると、段々と別のことをやるのが怖くなってきて しまう、できなくなってしまう。これをキャリア・パスの視点で見ると、「短い距離をまっすぐ上って終わり」というかたちになってしまいます。

――では、まっすぐ上って終わりになるのではなく、横に、あるいは斜めにキャリア・パスをつなげていくために、個人でどう努力すればよいのでしょう?

今、所属している組織の中だけでこの問題を解決しようとしても、選択肢は非常に限られてくるでしょう。では、選択肢を増やすにはどうしたらよいか? 自ら組織の外に出て行くことです。有志による勉強会や公的機関などがやっている研究会などの活動に参加し、視野を広げ、新たなキャリア・パスを見つけるよ う努力してください。単にセミナーに出て誰かの話を聞くだけでは足りません。自分の考えを基にディスカッションしたり、何らかの成果物を出したりするよう な活動に参加しないと、なかなか視野は広がりません。

もちろん、普段は仕事があるので、こうした活動は定時後や休日などに行うことになります。結局、そうした時間を割いてまで自分の視野/可能性を広げたい という人が、一段も二段も突き抜けていくんです。それに、外の世界を見ることで、自分が居る組織の良さや、自分が担当している仕事の良さに気づくこともあ ります。

なお、「外の世界を見よう」と言うと、いきなり会社を辞めてしまう人がいますが、それは違います。確かに、会社を辞めることも、いずれは手段の1つにな るかもしれませんが、その前に大切なのは、まず外の世界を知ることです。外の世界を見て視野を広げ、新たなキャリア・パスを模索し、そのうえで必要なら会 社を変えるというステップになるはずです。

 
インタビュー当日は社員犬キャンディの出社日でした。一緒に「ハイ、チーズ!」
■「相手が何を求めているのか」を考えて行動する

――「外に出る」ということのほかに、さらに突き抜けたいエンジニアが心掛けるべきことはありますか?

ここまでは技術スキルに関する話題が主でしたが、それとは違った視点で、もう1つアドバイスするとしたら、「相手が何を期待しているのかをつかみ、それに応えるよう努力する」ことです。

技術力が高くて尖ったエンジニアというのは、往々にして我が強いものです。そのこと自体は問題ないのですが、そうしたエンジニアにもぜひ心掛けてほしいのは、自分が相手から何を期待されているのかを常に考え、その期待に応えるよう努力することです。

相手の期待に応えるには、もしかしたら新機能は必要なくて、昔ながらの枯れた技術を使えば済むかもしれません。無数の選択肢の中から相手の期待に応える 方法を見つけるのは大変ですが、それができるようになると、「この仕事はAさんにお願いしたい。Aさんが必要だと考える技術/製品/機能を導入したい」と 頼られるようになります。これこそ、突き抜けたエンジニアです。ITプロフェッショナルたるもの、いずれはこうなりたいですよね。

――相手との間で、「その製品/機能を使えるからAさんに頼む」というのではなく、「Aさんが勧めるから、その製品/機能を入れる」とい う関係を築くわけですね。oracletech.jpをご覧の皆さんには、ぜひそうした立ち位置を目指していただきたいですね。高橋さん、本日はありがと うございました。